キッド・アイラック・アート・ホール

キッド・アイラック・アート・ホール（KID AILACK ART HALL）は、かつて東京都世田谷区松原に存在した小劇場およびギャラリーです。著作家で美術評論家の窪島誠一郎氏によって設立され、多岐にわたる芸術表現の場として多くの人々に記憶されています。

設立と歩み

このホールの始まりは、窪島氏が経営していたスナック「塔」の中に、1965年（昭和40年）2月に設置された「キッド・アイラック・ホール」に遡ります。1964年（昭和39年）に設立されたこの空間は、瞬く間に多くの若手芸術家たちにとって、交流し、自身の才能を磨き、発表する重要な拠点となりました。サックス奏者の阿部薫、歌手の浅川マキ、劇作家や詩人として知られる寺山修司など、後に各分野で時代を牽引する存在となる多くの芸術家たちが、この場所を愛し、ここから巣立っていったとされています。

およそ37年にわたる活動を続けた後、2002年（平成14年）7月に道路建設計画に伴い、惜しまれつつも一時閉館しました。しかし、その歴史は途絶えることなく、同年10月には「キッド・アイラック・アート・ホール」として、装いも新たに同じ世田谷区松原の地に再建され、活動を再開しました。

特徴と施設

再建されたキッド・アイラック・アート・ホールは、その名の由来となった日本語の「喜怒哀楽」が示すように、多様な感情や表現を受け入れる開かれた場でした。絵画や写真の展示といった視覚芸術に留まらず、朗読会、演奏会、ダンス公演、演劇など、様々なジャンルの表現者が活動できる総合的な芸術空間として機能しました。

建物内は複数のフロアに分かれており、それぞれの空間が異なる役割を担っていました。

- 地下1階: ブック・カフェ槐多（喫茶店 & bar）
- 1階: 小劇場・イベントホール
- 3階・4階: アネックスギャラリー
- 5階: ギャラリー

特に、地下1階に併設されていた「ブック・カフェ槐多」は、ホールを訪れる人々にとって魅力的な空間でした。このカフェは、窪島誠一郎氏の個人蔵書約千冊が天井までずらりと並べられた、独特で趣のある雰囲気を纏っていました。名称は、1919年（大正8年）にわずか22歳で夭折した悲劇的な詩人画家、村山槐多にちなんで名付けられており、壁には村山槐多のデッサンレプリカが飾られていました。カフェでは、サイフォンで丁寧に淹れられたこだわりのコーヒーや手作りのケーキに加え、アルコール類も提供され、芸術談義に花を咲かせたり、静かに読書にふけったりと、それぞれの時間を過ごすことができました。

かつての利用情報によれば、開館時間は10:00から22:00まで、毎週火曜日が休館日とされていました。所在地は東京都世田谷区松原2-43-11にあり、京王線および京王井の頭線の明大前駅から徒歩約2分という、アクセスしやすい立地でした。

閉館とその後の影響

キッド・アイラック・アート・ホールは、2016年（平成28年）12月31日をもって、設立者である窪島氏の意向により、その歴史に静かに終止符を打ちました。

ホールが閉館した後も、この場所に関わった人々の活動は続いています。閉館当時アートチーフディレクターを務めていた早川誠司氏と高山尚紀氏は、新たな芸術活動の場として「アトリエ第Q藝術」を設立しています。また、窪島誠一郎氏が手掛けた関連施設として、長野県上田市にある「無言館」や、同じく上田市にある「KAITA EPITAPH 残照館」（旧・信濃デッサン館）などが挙げられます。

キッド・アイラック・アート・ホールは、設立から閉館まで、半世紀以上にわたり多くの芸術家たちの活動を支え、多様な表現を受け入れ続けた、記憶に残る芸術空間でした。

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