グローバル教育

「グローバル教育（Global Education）」とは、地球規模で広がる様々な課題への深い理解を促進し、それらを解決するための能力を育成するとともに、地球の一員としての責任と自覚を持つ「地球市民」を育むことを目的とした教育概念です。国境や文化の違いを超え、相互に依存し合う複雑な世界を生きる上で求められる資質や能力の育成を目指します。

概念の誕生と歴史

この「グローバル教育」という用語と概念は、1960年代後半から1970年代にかけて、主にアメリカ合衆国で生まれ、提唱され始めました。当時のベトナム戦争終結といった国際情勢を背景に、自国中心的な視点を見直し、より広い国際社会全体の中での教育のあり方を模索する動きとして始まりました。その後、この考え方はイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国にも広がりました。イギリスでは、同義の言葉として「ワールド・スタディーズ」という用語が用いられることもありました。

定義と概念の広がり

グローバル教育には、現時点で universally accepted 確立された単一の定義は存在しません。しかし、共通した認識としては、「地球社会を相互に依存し合う複雑なシステムとして捉え、地球規模で発生する多様な問題を解決へと導くことのできる人材を育成すること」がその核となる目的とされています。

グローバル教育の初期の提唱者であるアンダーソンやベッカーは、1979年から1980年頃には、「グローバル教育とは、特定の教科や内容で定義される分野ではなく、むしろグローバル化する世界に適切に対応できる新しい教育を創造しようとする努力や運動そのもの」であると、比較的曖昧な定義づけを行っていました。その後、ユネスコが推進する国際理解教育など、様々な教育分野がお互いに影響を与え合い、連携し、融合する中で、「グローバル教育」という概念がゆるやかに形成されていきました。現在では、「地球規模の問題を取り扱うあらゆる分野や領域を包括する広範な概念」と捉えられています。

具体的な定義の試みとしては、2002年の「欧州グローバル教育会議」で「世界の現実に対して全ての人々の眼と心を開かせ、全ての人のためにより大きな正義、平等、人権が必要であることへの気付きを促すこと」とされたり、「オーストラリアグローバル教育プロジェクト」では「学生が地球市民として多文化共生社会の実現に貢献できる人材育成」とされたりしています。これらの定義からも、現実認識、倫理観、そして社会への貢献といった側面が重視されていることが分かります。

主な要素

グローバル教育のアプローチには、大きく分けて以下の3つの重要な方向性が認められます。

1. 地球的視野 (Global Perspective)
グローバル教育において最も優先され、重要視されるのが「地球的視野」です。これは、物事を自国の視点だけでなく、地球全体、人類全体の視点から捉え直すことを意味します。教育を通じてこの視野とは何かを問い、地球的視野に基づいた学習を行い、さらにその視野を広げていくプロセスこそが、グローバル教育の中心にあると考えられています。

2. 地球規模の問題 (Global Issues)
グローバル教育は、環境問題、開発問題、平和構築、人権、多文化共生、経済格差、テクノロジーの影響、メディアリテラシー、市民参加、健康、人種、ジェンダーといった多岐にわたる「地球規模の問題」を扱い、学習の対象とします。「地球規模の問題を取り扱うすべての分野と領域を包括する概念」であるため、扱うテーマは固定的なものではなく、常に新しい課題が加わり、変化し続けています。

3. 参加・体験・対話型学習 (Participatory, Experiential, Dialogic Learning)
グローバル教育では、知識の伝達だけでなく、学習者が主体的に関わる参加・体験・対話型の学習活動（アクティビティ）を重視します。自ら問題を探究し、体験を通じて学び、多様な他者との対話を通して理解を深めるプロセスを大切にします。

国際理解教育との関係性

「国際理解教育」と「グローバル教育」は関連性の深い概念ですが、その基本的な考え方には違いがあります。主な違いは「国家」の取り扱いにあります。

国際理解教育: 国際社会における「国家」の枠組みを基本的な単位と考えます。異文化理解を中心とし、異なる国家や文化間の相互理解を深めることに重点を置きます。
グローバル教育: 国家の枠組みを超え、特定の国家の利益だけでなく「地球全体の利益」や人類共通の福祉を優先する視点を持ちます。国際理解教育（特に異文化理解）の内容を含みつつ、より広範な地球規模の問題解決や、多文化共生社会および相互依存社会で求められる「地球市民」としての資質育成を目指す、より包括的な概念と言えます。

つまり、グローバル教育は国際理解教育の概念を内包しつつ、国家中心主義を超えた地球全体を視野に入れた教育アプローチであると言えます。

グローバル教育