グンバイムシ

グンバイムシ

グンバイムシは、カメムシ目カメムシ亜目グンバイムシ上科に属するグンバイムシ科の昆虫たちの総称です。世界には約2600種が知られており、そのうち日本からはおよそ70種が報告されています。これらの小さな昆虫は、独特な形態と生態を持っています。

名前と外見の特徴

「グンバイムシ」という和名は、その背面の形状が日本の武具である「軍配団扇」に似ていることに由来しています。閉じた状態の前翅（半翅鞘）が、団扇のような輪郭をしているためです。これは、形態から直接名付けられた日本語名の珍しい例です。多くの言語、例えば英語の 'Lacebug' に見られるように、彼らのもう一つの特徴である、半透明で網目状の模様を持つ前翅にちなんで「レース」や「網」といった言葉が使われています。まるで精緻なレース細工のような美しい翅は、グンバイムシを特徴づけます。

グンバイムシの体長は一般的に1.5ミリメートルから10ミリメートル程度と非常に小型です。日本に生息する種は2ミリメートルから5.5ミリメートルほどのものが多く、種によって多様な体形が見られます。雌雄による外見上の大きな違いはほとんどなく、区別には腹部先端の構造を確認するのが確実ですが、雌の方がやや横幅が広い傾向が見られます。

頭部には一対の触角があり、四つの節からなります。三番目の節が特に長く、先端の節は黒く丸みを帯びています。多くの種で頭部に短い棘が見られ、口は植物から汁を吸うための口吻となっています。

胸部、特に前胸背には、種識別の重要な要素である「隆起線」という筋状の構造や、側方に張り出す膜状の「翼突起」、そして頭部近くの「前突起」という器官があります。これらの構造の形状や発達の度合いは種によって大きく異なり、種類を見分ける重要な手がかりとなります。

翅は二対あり、レース模様を持つのは前翅（半翅鞘）です。半翅鞘は「小室」という網目状の区画に分かれ、透明または半透明ですが、一部が黒化して模様を形成するものもいます。半翅鞘は円板部、縫合部、周縁部、亜周縁部といった領域に分けられ、これらの小室の並び方や数は種ごとに異なります。

生態と生活のサイクル

グンバイムシの多くは、特定の植物を寄主とし、葉の裏側で生活します。気孔から口針を差し込み、葉の内部組織から汁を吸って栄養を得ます。この吸汁活動により、葉の表面には白い斑点（吸汁痕）が現れ、被害がひどい場合には植物が弱ったり枯れたりすることもあります。

日本では、ツツジグンバイ、ナシグンバイ、キクグンバイなどが比較的知られており、それぞれツツジ類、バラ科果樹、キク科植物に被害をもたらします。しかし、日本では主要な農業害虫として広く認知されているわけではありません。対照的に、海外ではコットンやアボカド、コーヒーなどの重要な農作物に被害を与える種や、ココナッツの伝染病を媒介する重要な病害虫として知られている種も存在します。

多くのグンバイムシは成虫で冬を越しますが、ツツジグンバイなどが含まれるStephanitis属の種は、卵で越冬します。卵はナスのような形をしており、寄主植物の葉の組織内に埋め込まれるように産み付けられます。孵化した幼虫（若虫）は、五回の脱皮を経て成虫になります。

特異な生活史を持つ種もいます。ヒゲブトグンバイ属やParacopium属の一部は、寄主植物に虫こぶを形成させ、その内部で若虫が成長します。成虫になると虫こぶから出て自由生活を送ります。日本からはヒゲブトグンバイ（Copium japonicum）がこの例として知られています。

分類体系

グンバイムシ科は、ウチワグンバイ亜科（Cantacaderinae）とグンバイムシ亜科（Tinginae）の二つの亜科に大きく分けられます。さらにこれらの亜科はいくつかの族を含み、特にグンバイムシ亜科のTingini族には大部分の種が含まれています。日本からは、ウチワグンバイ亜科の二つの族と、グンバイムシ亜科のYpsotingini族などから種が見つかっています。分類体系については、研究者の間で異なる見解が示されることもあります。

日本国内の侵入種

近年、日本国内では海外から侵入・定着した外来のグンバイムシが問題となっています。現在までに、プラタナスグンバイ、アワダチソウグンバイ、ヘクソカズラグンバイの三種が確認されています。これらの種は1990年代後半頃に日本に侵入し、各地で急速に分布を広げています。特にアワダチソウグンバイは、その生息域の拡大が懸念されています。

研究の歴史

日本におけるグンバイムシの研究は、19世紀後半に始まり、20世紀に入ると日本の研究者も加わって進められました。特に1960年代に発表された武谷直氏の論文によって、日本産グンバイムシの全体像が大きく明らかになりました。その後も分類学的な研究は続けられており、未記載種が存在することが分かっています。

もう一度検索