コニイン

コニイン (Coniine) について

コニインは、ドクニンジンに含まれる有毒な偽アルカロイドの一種です。アミノ酸由来ではなくアンモニア由来の窒素を持つ点が特徴で、天然にはS体の異性体として存在します。ドクニンジンは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスの処刑に用いられたことでよく知られています。

歴史

1881年：A・ホフマンがコニインの分離に成功し、構造を決定しました。
1886年：アルベルト・ラーデンブルクがクネーフェナーゲル縮合を利用してコニインの合成に成功しました。

性質

コニインは、以下のような性質を持っています。

無色の油状液体で、刺激臭があります。
水には溶けにくく（1mLを溶解するのに90mLの水が必要）、温水にはさらに溶けにくくなりますが、アルコールには溶けやすいです。
比旋光度は+15.7°、屈折率は1.4505（20℃）です。
生合成経路は酢酸-マロン酸経路です。
空気中では光によって樹脂化します。

合成

コニインは、以下の方法で合成できます。

2-メチルピリジン（α-ピコリン）とアセトアルデヒドを250℃で反応させて2-プロペニルピリジンを生成し、それをナトリウムとエタノールで還元します。

毒性

コニインは非常に毒性が高い物質です。

ヒトに対する致死量は60～150mgとされています。
マウスでのLD50は、経口で100mg/kg、静注ではその1/8程度です。
消化管からの吸収が速いため、中毒症状は急速に現れ、摂取後30分～1時間で死に至ることもあります。

コニインを摂取すると、初期には中枢神経興奮麻痺作用を示し、その後、中枢神経抑制作用（ニコチン様作用）を示します。運動神経の末梢から麻痺が進行し、以下の症状が現れます。

1. 悪心、嘔吐、口渇、瞳孔散大
2. 手足末端の麻痺（脚部→腕部→表情筋の順）
3. 痙攣
4. 呼吸筋麻痺による呼吸障害

意識は最後まで正常に保たれたまま死に至るとされています。また、妊娠初期のウシにドクニンジンやコニインを与えると、四肢関節や脊椎の彎曲奇形を持つ仔牛が生まれることがあります。

中毒時の対処法

コニイン中毒が発生した場合、以下の対処法が推奨されます。

早期に0.05%過マンガン酸カリウム水溶液で胃洗浄を行います。
活性炭20gを水に加えて懸濁させ、内服させます。
利尿剤（フロセミド20mg静注）による排出を促進します。
塩類下剤（硫酸ナトリウム30gを250mLの水に溶解）を内服させます。
人工呼吸による呼吸管理を行います。
痙攣が生じた場合は、ジアゼパムを緩徐に静注または深く筋肉内注射します。

ソクラテスの処刑

古代ギリシャでは、罪人の処刑にアヘンとドクニンジンを混ぜたものが用いられていました。ソクラテスの処刑にはドクニンジンが用いられたと言われており、その最期の様子は弟子プラトンの著書「パイドン」に詳しく記されています。ただし、ソクラテスの処刑に用いられたのはドクニンジンではなくドクゼリであったという説もあります。

フィクションでの使用例

コニインは、その毒性からフィクション作品にも登場することがあります。

和久峻三の小説「赤かぶ検事シリーズ」のエピソード「ソクラテスの毒薬」では、赤かぶ検事毒殺の手段としてコニインが使われました。
ドラマ「相棒」Season 2では、犯人がコニインを使い偽装自殺を図りました。
* アガサ・クリスティの小説「五匹の子豚」では、エイミアス・クレイルの毒殺にコニインが使用され、作中でコニインの作用を説明するシーンでパイドンが登場します。

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