サハリン1

サハリン1：極東のエネルギー供給を担う巨大プロジェクト

サハリン1は、ロシア・サハリン州のサハリン島北部東岸、チャイウオ周辺に広がる油田・天然ガス田の開発プロジェクトです。このプロジェクトは、サハリン島における大規模な資源開発計画「サハリンプロジェクト」の一環として進められてきました。

概要

サハリン1の埋蔵量は、原油が約23億バーレル、天然ガスが約17兆立方フィートと推定されています。この豊富な資源を輸送するため、1942年からはオハ[[油田]]から大陸側のニギリ、デカストリを経由してコムソモリスク・ナ・アムーレへと続く石油パイプラインが稼働しています。

1995年以降、エクソンモービル社の子会社であるエクソン・ネフテガス社が開発の中心となり、日本のサハリン石油ガス開発株式会社（SODECO）、ロシアのサハリン・モルネフテガスシェルフ社、ロスネフチアストラ社、インドのONGC Videsh社の計5社がコンソーシアムを組んで事業を展開してきました。しかし、2022年10月にはエクソン・ネフテガス社が撤退し、新たに設立された有限責任会社「サハリン1」がコンソーシアムの権利義務を承継しています。

サハリン1は、チャイヴォ油ガス田、オドプト油ガス田、アルクトン・ダギ油ガス田の３つの主要な油ガス田から構成されています。特に、オドプト油田のOdoptu OP-11油井は、坑道延長が12,345メートルと、人工的に掘削された世界最長の坑道（大偏距掘削）として知られています。ただし、水平方向の長さは11,475メートルであり、深度ではコラ半島超深度掘削坑の12,261メートルが最深記録となっています。

歴史

サハリン1の開発は、1972年の日ソ経済合同委員会で当時のソ連側から開発プランが提案されたことに端を発します。その後、1974年にはサハリン石油開発協力株式会社（SODECO）が設立され、1975年にはSODECOとソ連外国貿易省が共同事業契約を締結しました。

1995年には、ロシア政府との間で生産される原油と天然ガスの分与契約が締結され、本格的な開発が始まりました。2005年にはチャイヴォ油田で原油の生産が開始され、2006年にはサハリン東沖10kmのOrlan Platformから、サハリンを横断し、ロシア本土の不凍港デカストリまでのパイプラインが完成し、原油の輸出が開始されました。

その後も、2007年に原油生産量が日量25万バーレルに達し、2010年にはオドプト油田、2015年にはアルクトン・ダギ油田で原油生産が開始されるなど、開発は順調に進みました。

しかし、2022年3月には、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、米エクソンモービルがサハリン1からの撤退を表明しました。同年10月には、サハリン1コンソーシアムの権利義務が、有限責任会社「サハリン1」に移転され、同年11月には、ロシア政府がSODECOとONGC Videshの有限責任会社サハリン1への参加を承認しました。

権利問題

サハリン1の契約では、生産物分与協定が結ばれています。これは、プロジェクトに関するロシア側の参加条件（施設、労働力の提供など）や、生産される原油と天然ガスの分与条件などを定めたものです。しかし、協定自体は未公開であり、プロジェクトのリスクなどを不透明にさせている側面があります。2022年の大統領令により、1995年に締結された生産物分与協定に基づく権利義務がコンソーシアムから新会社へ移転されましたが、同協定の変更は今後行われる予定です。

ウクライナ侵攻とサハリン1

2022年2月26日、ロシアによるウクライナ侵攻が開始され、欧米や日本などはロシアに対して経済制裁を発動しました。これに伴い、民間企業がロシアから事業を撤退させる動きが加速し、同年3月1日には、サハリン1の30％の権益を保有していたエクソンモービルが撤退を表明しました。サハリン1は、エクソンモービルがロシア国内で行う唯一の事業であり、この撤退は同社がロシアから完全に手を引くことを意味しました。

日本政府は、エネルギーの安定供給を最優先に考慮しながら、G7諸国と連携してサハリン1への関与のあり方を検討すると表明しました。萩生田経産相は、サハリン1とサハリン2を「自国で権益を有し、長期的な資源の引き取り権が確保されているエネルギー安全保障上極めて重要なプロジェクト」と位置づけました。

2022年10月12日、ロシア政府は事業を移す新会社を設立し、海外の出資者に対して、1ヶ月以内に参加の意思を示すよう求めました。日本からは石油資源開発、伊藤忠商事、丸紅、INPEXが参加し、プロジェクトの30%の権益を保有しています。SODECOに出資する伊藤忠商事は、日本政府や他のパートナーと連携して適切に対応していくとコメントしました。

2022年11月15日、ロシア政府は日本のサハリン石油ガス開発に対し、事業を引き継いだ新会社への参画を承認しました。出資比率は、以前と同率の30％が認められました。

テレビ番組

サハリン1に関連するテレビ番組として、日経スペシャルガイアの夜明け「燃えよサハリン〜始動する石油巨大プロジェクト〜」（2004年2月24日、テレビ東京）があります。

参考文献

ロシアNIS貿易会『Ⅰ．サハリン大陸棚開発の歴史』ロシアNIS貿易会、2004年。https://web.archive.org/web/20071107030742/http://www.rotobo.or.jp/publication/RTNL/2004No.4.pdf
John J. Stephan『Sakhalin Island: Soviet Outpost in Northeast Asia』Jstor、1970年。https://www.jstor.org/stable/2643058?read-now=1&oauth_data=eyJlbWFpbCI6Im90b2hhbmF5YS5tYWlsQGdtYWlsLmNvbSIsImluc3RpdHV0aW9uSWRzIjpbXX0#page_scan_tab_contents