ザ・ジェネシス

ザ・ジェネシス：若き天才ギタリストの原石

2002年に発表された『ザ・ジェネシス』は、ネオクラシカル・ヘヴィメタルというジャンルを確立した孤高のギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンの初期衝動と才能の片鱗を捉えた特別なアルバムです。正式名称は「イングヴェイ・J・マルムスティーン」名義でリリースされました。この作品に収められている音源の大部分は、彼がプロフェッショナルとしてデビューする遥か以前、まだ16歳だった1980年1月頃にレコーディングされたものです。

録音場所は、イングヴェイが当時住んでいたアパートの地下倉庫。祖母がそのアパートの管理人を務めていたため、使用許可を得られたと言われています。録音には4トラックレコーダーが用いられましたが、あくまでホームレコーディングのデモ音源であるため、その音質や全体的な完成度は商業作品と比べて高いとは言えません。楽曲構成も未完成な部分が多く、若きイングヴェイが自身のテクニックを存分に披露したいという意図からか、ギター演奏に費やされる時間が長い楽曲が多数を占めています。

しかしながら、本作が持つ最大の価値は、1980年という時代に、まだ10代だったイングヴェイが、既にその後のキャリアを決定づける独自のギター・スタイルを確立していた事実を如実に示している点にあります。驚異的な速弾きやクラシック音楽からの影響を感じさせるフレーズ、そしてダイナミクスを巧みに操る奏法など、現在の彼のスタイルと直結する要素がこの時点で既に完成されていたことが確認できます。さらに、後の代表曲や人気楽曲へと繋がるリフや印象的なフレーズが数多く収められている点も特筆されるべきでしょう。

実は、これらのスウェーデン時代のデモ音源は、『ザ・ジェネシス』が公式リリースされる以前から、海賊盤として市場に出回っていました。中でも「Birth of the Sun」と名付けられたミニアルバムなどが知られており、その流出元は当時の関係者であったマルセル・ヤコブであると、イングヴェイはインタビューで語っています。自身の許可なくアマチュア時代の貴重な音源が勝手にリリースされていたことにイングヴェイは激しい怒りを感じましたが、一方でそうした音源に対するファンの強い要望が存在することを知ります。そこで彼は、市場に蔓延する非公式な海賊盤を排除し、ファンに高品質な形で音源を届けるため、自らの手による公式リリースを決断しました。

こうして企画された『The Genesis』は、単に既存のデモ音源を収録するだけでなく、公式な編集作業が加えられ、現代のリスニング環境に合わせたデジタルリマスターが施されました。一部の楽曲解説にもある通り、このデモ音源に含まれるアイデアは、後年の『エクリプス』『マーチング・アウト』『オデッセイ』『トリロジー』『アルケミー』といったアルバムの楽曲に活かされていることが分かります。例えば、「バース・オブ・ザ・サン」や「プレイグ・イン・ルシファーズ・マインド」には『エクリプス』収録の「Motherless Child」との関連が見られ、「ダイイング・マン」には『マーチング・アウト』の「I'll See the Light, Tonight」と同系のリックが、「マーリンの城」のギターソロには『オデッセイ』の「Rising Force」のフレーズが確認できます。

アルバムの参加メンバーについて補足すると、海賊盤「Birth of the Sun」ではベースをマルセル・ヤコブが演奏していましたが、前述の経緯から公式盤である『ザ・ジェネシス』では、マルセルによる演奏がイングヴェイ自身のベースに差し替えられています。公式盤のメンバーとしては、ヴォーカル、ギター、ベースをイングヴェイ・マルムスティーン自身が担当し、ドラムスはゼップ・ウルガドがクレジットされています。

なお、アルバムには大部分を占める1980年録音のデモに加え、「ヴードゥー・チャイルド (ジャム）」のように1990年に録音されたジミ・ヘンドリックスのカヴァーや、「シリアス・ノート（インストゥルメンタル）」のような1997年製作の未発表音源も例外的に収録されており、初期のスタイルだけでなく、後の活動期の一部を垣間見ることもできます。

『ザ・ジェネシス』は、サウンドプロダクションこそデモレベルですが、歴史上重要なギタリストの一人であるイングヴェイ・マルムスティーンが、いかに若くしてその革新的なスタイルを確立していたかを知る上で、非常に価値の高い資料と言えるでしょう。ファンの海賊盤への需要に応えつつ、自身のアーティスト性を守るためにリリースされたという背景も興味深く、彼のキャリアにおける重要な節目を示す作品です。

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