ジャイロジェット・ピストル
ジャイロジェット（Gyrojet）は、1960年代初頭にアメリカ合衆国のMBアソシエイツ社（MB Associates, MBA）によって開発された、一般的な小火器と同程度のサイズのロケットランチャーです。ピストル型やカービン型などが製造され、そのユニークな構造と性能から注目を集めました。
ジャイロジェットの開発は、1960年に核兵器研究者ボブ・マインハートと銃器設計者アート・ビールが、先進的なロケット兵器の研究開発を目的としてMBアソシエイツ社を設立したことから始まります。当初は小型の手持ち式信号弾発射器を構想していましたが、軍事用途への転換を図り、携帯可能なロケットランチャーとして開発が進められました。こうして誕生したのが、ジャイロジェットの名前を冠する一連の火器です。開発者たちは、これらのロケットランチャーが従来の火器に比べて非常に軽量でありながら高い威力を持ち、射撃時の反動や発射音もほとんどなく、誰でも容易に扱える画期的な兵器であると宣伝しました。
開発が進められていた時期の1968年、アメリカでは新たな銃規制法が施行されました。この法律により、口径が.50インチ（約12.7mm）を超える発射体を使用する火器は「破壊的装置」（destructive devices）として区分されることになります。ジャイロジェットの主力モデルであった13mm弾は、約.511インチとこの基準を超えていたため、規制に対応するためやや小口径の12mmモデルが新たに設計されました。以降、既存の13mmモデルは「マーク1」、新設計の12mmモデルは「マーク2」と呼ばれるようになります。後にアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局によって13mmロケット弾は破壊的装置の区分から除外され、マーク1も一般的な銃器と同様に合法的に所持・販売が可能となりました。
ジャイロジェットの最大の特徴は、専用に開発された小型ロケット弾を使用する点です。ロケット弾は真鍮製の薬莢に固体ロケット燃料が収められており、尾部に設けられた4つの噴射口からガスを噴射することで推進し、同時に回転してジャイロ効果により弾道を安定させます。主な口径は12mmと13mmで、これは一般的な.45ACP弾に近いサイズです。ロケット弾の発射メカニズムは独特で、銃本体のハンマーがロケット弾の先端を叩くと、その衝撃でロケット弾の尾部が本体側の固定されたファイアリングピンに接触してロケット燃料に着火します。燃料が燃焼し始めると、ロケット弾はハンマーを押し退ける形で銃身から発射されます。
しかし、この構造にはいくつかの大きな問題がありました。ロケット弾は発射された直後は十分な加速がされておらず、弾速が極めて遅いため、近距離ではほとんど威力が発揮されませんでした。具体的には10フィート（約3メートル）未満の距離では効果が薄く、これは一般的なピストルが使用されることの多い至近距離での戦闘には不向きであることを意味しました。また、ロケット弾自体の製造品質にばらつきがあり、不発や弾道の不安定さを招く一因となりました。適切に発射された場合でも、ロケット弾は15～60フィート（約4.5～18メートル）の範囲で.45ACP弾（ラウンドノーズ）に似た弾道特性を示したとされています。
銃本体の構造は、使用するロケット弾と比較すると非常に簡素です。フレームは主にザマック合金製でプレス加工されており、薄い銃身はスチール製でした。固定式の6連弾倉を備え、ロケット弾は弾倉上部から手動で装填します。スライドも備えていますが、これは排莢のためではなく、装填や取り出しの際に手動で操作するものでした。
ジャイロジェットは、その革新的なコンセプトにも関わらず、商業的な成功を収めることはありませんでした。前述の性能上の問題点に加え、一発あたりのロケット弾の価格が非常に高価だったことも、広く普及しなかった理由の一つです。MBアソシエイツ社は1969年に販売を終了するまで改良を試みていましたが、結局市場に受け入れられることはありませんでした。
開発段階では、実に60種類もの派生型が構想されていました。口径も7mmから、ミサイル迎撃を想定した55mmスウォームロケットまで、様々なバリエーションが提案されました。しかし、これらのほとんどは計画段階に留まり、実際に製造されたモデルは限定的でした。比較的よく知られているピストル型やカービン型の他に、M16小銃に対抗することを目的としたジャイロジェット・ライフルや、水中での使用を想定したランスジェット（Lancejet）なども少数製造されました。全てのモデルを合わせても、総生産数は1,000丁に満たないと推定されています。
ごく少数のジャイロジェット・ピストル（マーク1）が、ベトナム戦争中にアメリカ陸軍の特殊部隊（SOG）によって試験的に使用されました。これは、開発元が宣伝していた消音性能に期待して調達されたものとされています。SOG隊員として最初に名誉勲章を授与されたジョージ・K・シスラー中尉は、殉職することになる最期の戦闘でジャイロジェット・ピストルを使用したという記録があります。また、彼のジャイロジェット・ピストルは後に回収され、別の名誉勲章受章者であるフランクリン・D・ミラー曹長によって使用されたという話も伝わっています。
また、この特異な火器はソビエト連邦の関心も惹きました。1966年には、身分を隠したソ連の情報将校らがアメリカの銃砲店でジャイロジェット・ピストルの購入を試み、本体の入手には至らなかったものの、ロケット弾の入手には成功したというエピソードが残されています。
商業的には短命に終わったジャイロジェットですが、そのユニークな存在は様々なフィクション作品にも登場しています。有名な例としては、映画『007は二度死ぬ』において日本の公安忍者部隊の装備としてピストル型やカービン型、ライフル型が登場し、劇中で使用されるシーンが描かれました。近年ではゲーム『バイオハザード ヴィレッジ』に「ロケットピストルMk1」という名称でピストル型が登場し、特別なアイテムとして入手可能となっています。
ユニークな発想で生まれたジャイロジェットは、性能上の課題やコストの問題から広く普及することはありませんでしたが、火器の歴史において特異な発展を遂げた事例として記憶されています。
開発の背景と経緯
ジャイロジェットの開発は、1960年に核兵器研究者ボブ・マインハートと銃器設計者アート・ビールが、先進的なロケット兵器の研究開発を目的としてMBアソシエイツ社を設立したことから始まります。当初は小型の手持ち式信号弾発射器を構想していましたが、軍事用途への転換を図り、携帯可能なロケットランチャーとして開発が進められました。こうして誕生したのが、ジャイロジェットの名前を冠する一連の火器です。開発者たちは、これらのロケットランチャーが従来の火器に比べて非常に軽量でありながら高い威力を持ち、射撃時の反動や発射音もほとんどなく、誰でも容易に扱える画期的な兵器であると宣伝しました。
法規制とモデルの変遷
開発が進められていた時期の1968年、アメリカでは新たな銃規制法が施行されました。この法律により、口径が.50インチ（約12.7mm）を超える発射体を使用する火器は「破壊的装置」（destructive devices）として区分されることになります。ジャイロジェットの主力モデルであった13mm弾は、約.511インチとこの基準を超えていたため、規制に対応するためやや小口径の12mmモデルが新たに設計されました。以降、既存の13mmモデルは「マーク1」、新設計の12mmモデルは「マーク2」と呼ばれるようになります。後にアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局によって13mmロケット弾は破壊的装置の区分から除外され、マーク1も一般的な銃器と同様に合法的に所持・販売が可能となりました。
構造と性能の問題点
ジャイロジェットの最大の特徴は、専用に開発された小型ロケット弾を使用する点です。ロケット弾は真鍮製の薬莢に固体ロケット燃料が収められており、尾部に設けられた4つの噴射口からガスを噴射することで推進し、同時に回転してジャイロ効果により弾道を安定させます。主な口径は12mmと13mmで、これは一般的な.45ACP弾に近いサイズです。ロケット弾の発射メカニズムは独特で、銃本体のハンマーがロケット弾の先端を叩くと、その衝撃でロケット弾の尾部が本体側の固定されたファイアリングピンに接触してロケット燃料に着火します。燃料が燃焼し始めると、ロケット弾はハンマーを押し退ける形で銃身から発射されます。
しかし、この構造にはいくつかの大きな問題がありました。ロケット弾は発射された直後は十分な加速がされておらず、弾速が極めて遅いため、近距離ではほとんど威力が発揮されませんでした。具体的には10フィート（約3メートル）未満の距離では効果が薄く、これは一般的なピストルが使用されることの多い至近距離での戦闘には不向きであることを意味しました。また、ロケット弾自体の製造品質にばらつきがあり、不発や弾道の不安定さを招く一因となりました。適切に発射された場合でも、ロケット弾は15～60フィート（約4.5～18メートル）の範囲で.45ACP弾（ラウンドノーズ）に似た弾道特性を示したとされています。
銃本体の構造は、使用するロケット弾と比較すると非常に簡素です。フレームは主にザマック合金製でプレス加工されており、薄い銃身はスチール製でした。固定式の6連弾倉を備え、ロケット弾は弾倉上部から手動で装填します。スライドも備えていますが、これは排莢のためではなく、装填や取り出しの際に手動で操作するものでした。
商業的な失敗と派生型の構想
ジャイロジェットは、その革新的なコンセプトにも関わらず、商業的な成功を収めることはありませんでした。前述の性能上の問題点に加え、一発あたりのロケット弾の価格が非常に高価だったことも、広く普及しなかった理由の一つです。MBアソシエイツ社は1969年に販売を終了するまで改良を試みていましたが、結局市場に受け入れられることはありませんでした。
開発段階では、実に60種類もの派生型が構想されていました。口径も7mmから、ミサイル迎撃を想定した55mmスウォームロケットまで、様々なバリエーションが提案されました。しかし、これらのほとんどは計画段階に留まり、実際に製造されたモデルは限定的でした。比較的よく知られているピストル型やカービン型の他に、M16小銃に対抗することを目的としたジャイロジェット・ライフルや、水中での使用を想定したランスジェット（Lancejet）なども少数製造されました。全てのモデルを合わせても、総生産数は1,000丁に満たないと推定されています。
実戦での使用とメディア登場
ごく少数のジャイロジェット・ピストル（マーク1）が、ベトナム戦争中にアメリカ陸軍の特殊部隊（SOG）によって試験的に使用されました。これは、開発元が宣伝していた消音性能に期待して調達されたものとされています。SOG隊員として最初に名誉勲章を授与されたジョージ・K・シスラー中尉は、殉職することになる最期の戦闘でジャイロジェット・ピストルを使用したという記録があります。また、彼のジャイロジェット・ピストルは後に回収され、別の名誉勲章受章者であるフランクリン・D・ミラー曹長によって使用されたという話も伝わっています。
また、この特異な火器はソビエト連邦の関心も惹きました。1966年には、身分を隠したソ連の情報将校らがアメリカの銃砲店でジャイロジェット・ピストルの購入を試み、本体の入手には至らなかったものの、ロケット弾の入手には成功したというエピソードが残されています。
商業的には短命に終わったジャイロジェットですが、そのユニークな存在は様々なフィクション作品にも登場しています。有名な例としては、映画『007は二度死ぬ』において日本の公安忍者部隊の装備としてピストル型やカービン型、ライフル型が登場し、劇中で使用されるシーンが描かれました。近年ではゲーム『バイオハザード ヴィレッジ』に「ロケットピストルMk1」という名称でピストル型が登場し、特別なアイテムとして入手可能となっています。
ユニークな発想で生まれたジャイロジェットは、性能上の課題やコストの問題から広く普及することはありませんでしたが、火器の歴史において特異な発展を遂げた事例として記憶されています。
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