スタート!

中山七里の『スタート!』について

中山七里著の『スタート!』は、映画撮影の裏側を描いた推理小説である。本書は、映画業界の厳しさや制作の現場をリアルに描写しつつ、サスペンス要素を取り入れた作品だ。著者が映画好きであることも、作品に色濃く反映されている。

執筆の背景

元々は戦後すぐの時代を背景にする予定であったが、編集担当者のアドバイスにより現代の映画界を舞台にすることに決めた。このきっかけとなったのは、2013年に公開された映画『さよならドビュッシー』の撮影現場を訪れた際、他の作品に関する意見を多く聞いたことだ。それらの中で「映画化は無理」という意見が相次いだため、『連続殺人鬼カエル男』という旧題を持つ作品を自らの手で映画化することを決意した。これにより『スタート!』の物語は、映画の撮影現場を中心に展開することになった。

本作の中では、フィクションの映画『災厄の季節』の制作が描かれ、その原作もスリリングで重厚な内容として設定されている。中山はリサーチや取材を行うことなく、主に自らの想像を基に描写を行った。また、監督キャラクターには、自分が感銘を受けた実在の映画監督の特性を取り入れている。これにより、キャラクターには独自の魅力と深みが与えられている。

あらすじ

物語は、宮藤映一という34歳の助監督を中心に展開する。彼はテレビ局を離れ、映画制作に携わって来たものの、次第に虚しさを感じるようになっていた。大森宗俊という名監督のプロジェクトでやっとチャンスを与えられた映一だが、現場では様々な問題が山積していた。製作費の問題や、スタッフ間のトラブル、さらには原作が扱うテーマの過激さから、映画制作は困難を極める。

撮影開始後も、スポットライトの落下による事故や、キャストのスキャンダル、さらにはネット流出といったトラブルが続発。映一はこの映画が無事に完成するのか、そしてこれらの問題が誰の仕業なのかを探ることに。大森監督の指導の下で彼が直面するこれらの課題は、彼の情熱や信念を試すこととなる。

登場人物

• - 宮藤 映一: 主人公で助監督。映画制作に対する情熱を持つが、近年はマンネリを感じている。
• - 大森 宗俊: 邦画界の巨匠であり、作品への情熱が強い。
• - 五社 和夫: 大森監督のプロデューサーで、彼を支える盟友。
• - 小森 千寿: 大森作品を手掛けるカメラマン。温厚で気さくな性格。
• - 曽根 雅人: 帝都テレビのプロデューサーで、資金調達の際に苦労する。

作品の魅力

本作は、映画制作に関わる人間の心理や葛藤を描く中で、エンターテイメントとしても非常に楽しめる内容に仕上がっている。様々な人間模様やトラブルが描かれ、その中で主人公の成長や自分探しが展開されていく様は、読者に深い印象を残すだろう。特に中山七里さんの筆致は、登場人物それぞれに個性を持たせつつ、映画界のリアリティを映し出すことに成功している。

このように、『スタート!』は映画制作の裏側を知る貴重な視点を提供しつつ、読者を引き込む物語展開が秀逸な作品である。

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