ダイアトニック

ダイアトニックとは

ダイアトニック（diatonic）は、ハーモニカやアコーディオンなどの蛇腹楽器において用いられる特殊な専門用語です。音楽理論における「ダイアトニック・スケール」（全音階）とは意味合いが異なり、「クロマティック」と対になる概念として理解する必要があります。

蛇腹楽器におけるダイアトニックとクロマティック

通常の音楽用語では、ダイアトニック・スケールは全音階、クロマティック・スケールは半音階を指します。しかし、蛇腹楽器の世界では、以下のように区別されます。

ダイアトニック式（バイソニック、プッシュ・アンド・プル）: ボタン鍵盤を押したまま、蛇腹を押すと「ド」、引くと「レ」のように、異なる音が出る方式（押し引き異音式）。
クロマティック式（ユニソニック）: ボタン鍵盤を押すと、蛇腹の押し引きに関わらず同じ音が出る方式（押し引き同音式）。

ダイアトニック式のメリット・デメリット

ダイアトニック式の蛇腹楽器は、構造上、以下のような特徴があります。

メリット

習得のしやすさ: 単純な曲や和音を演奏する場合、運指が単純なため、クロマティック式よりも手軽に演奏できます。
小型化に有利: 少ない鍵盤数で多くの音を鳴らせるため、楽器の小型化に適しています。
独特の音色: リードの不規則な配列が、豊かで複雑な共鳴現象を生み出し、独特の音色を作り出す可能性があります。

デメリット

複雑な曲への対応: 半音階や転調を含む複雑な曲を演奏する場合、運指が難しくなる傾向があります。
楽器のサイズ: 楽器が大きくなると、蛇腹の押し引きが頻繁になり、演奏が難しくなる場合があります。

クロマティック式のメリット・デメリット

クロマティック式の蛇腹楽器は、ダイアトニック式とは逆の特徴を持ちます。

メリット

複雑な曲への対応: 蛇腹の押し引きの切り替えが不要なため、中型～大型の楽器での演奏に適しています。

デメリット

* 小型化に不利: 少ない鍵盤数では、鳴らせる音域が狭くなってしまいます。

楽器の改良と分類呼称の「ねじれ」

初期の蛇腹楽器は、ダイアトニック・スケールのみを演奏できる小型のものが多く、バイソニック（押し引き異音式）のボタン鍵盤が一般的でした。そのため、蛇腹楽器の関係者は、バイソニックの意味で「ダイアトニック」という言葉を使うようになりました。

一方、半音階も網羅できる蛇腹楽器は、初期の頃はおおむねユニソニック（押し引き同音式）だったため、蛇腹楽器の関係者は、ユニソニックの意味で「クロマティック」という言葉を使うようになりました。

その後、蛇腹楽器の改良が進み、バイソニックの蛇腹楽器でも半音階を演奏できるものが現れましたが、慣習的に「ダイアトニック」または「セミ・クロマティック」と呼ばれることがあります。これは、楽器業界における慣用的な表現の「ねじれ」の一例です。

事実上は別種の楽器

蛇腹楽器の場合、外見がほぼ同じでも、鍵盤の配列がダイアトニックかクロマティックかによって、奏法や音楽のフィーリングが大きく異なり、事実上、別種の楽器となります。そのため、アコーディオンやバンドネオンなどの演奏者は、「ダイアトニック派」と「クロマティック派」に分かれ、それぞれ自分の楽器に強い思い入れを持つ傾向があります。

楽器を選ぶ際には、演奏したい音楽や好みの奏法に合わせて、ダイアトニック式かクロマティック式かを慎重に検討することが重要です。

ハーモニカにおけるダイアトニック

ハーモニカの場合、一つの穴に息を吹き込んだときと吸い込んだときで異なる音が出る「吹吸異音式」で、全音階しか出せないタイプを「ダイアトニック・ハーモニカ」と呼びます。半音階をカバーできる「クロマティック・ハーモニカ」は、半音違いの2つのダイアトニック・ハーモニカを組み合わせた構造になっています。

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