テアトル石和

テアトル石和：石和温泉と共に歩んだ映画館の記憶

テアトル石和は、かつて山梨県笛吹市石和町に存在した映画館です。1968年（昭和43年）に開館し、2018年（平成30年）2月28日に惜しまれつつ閉館しました。経営は有限会社有泉商事が担っていました。

歴史

有泉家の足跡

有泉家の歴史は、満州国の張家口市で映画館経営をしていた有泉由幸氏に始まります。太平洋戦争終戦直前に日本へ引き揚げ、1946年（昭和21年）11月には山梨県南巨摩郡増穂町に南嶺映画劇場（後のテアトル南嶺）を開館。その後も山梨県各地に映画館を展開し、1964年東京オリンピックの頃には、その経営する映画館は20館近くにまで拡大しました。

有泉由幸氏の息子である有泉英機氏は、1941年（昭和16年）に張家口市で生まれます。早稲田大学政治経済学部を卒業後、東京都内で学習塾を経営していました。1961年（昭和36年）には東八代郡石和町で温泉が湧出し、1960年代後半には旅館や芸者置屋などが相次いで開業するなど、石和温泉の温泉街として町は活気づいていました。

テアトルアンネ時代（1968年～1993年）

1968年（昭和43年）、石和町に映画館「テアトルアンネ」が開館し、有泉英機氏が初代支配人に就任しました。開館当初は成人映画と一般映画を併せて上映。石和温泉が東京方面からの観光客で賑わっていたこともあり、地域住民や観光客で大変な賑わいを見せました。観光客を連れてきた芸者には、入館料の一部を戻すというサービスも行っていたそうです。1970年（昭和45年）には有泉英機氏がテアトル石和の2代目社長に就任。1981年（昭和56年）に有限会社有泉商事を設立して法人化し、パチンコ店を併設したり、映画館内にレンタルビデオ店を構えたりするなど、当時としては斬新な試みも行いました。しかし、1970年代後半には月間約2000人の観客を集めていたものの、家庭用ビデオの普及などにより観客数は激減し、1990年代前半には1000人を下回るようになりました。

テアトル石和時代（1993年～2018年）

バブル崩壊による社員旅行の減少や石和温泉のイメージチェンジを図るため、1993年（平成5年）に「テアトル石和」と改称し、一般映画を封切館から遅れて上映する二番館となりました。改称後は社会派作品も多く上映し、出張上映も積極的に行いました。有泉英機氏は甲府市中心部でもテアトル甲府を経営していましたが、テアトル甲府は2001年（平成13年）2月末に閉館し、有泉商事が経営する映画館はテアトル石和のみとなりました。

デジタルシネマ化が進んだ2010年代には、若手俳優・女優が出演する邦画の上映にも力を入れ、映画のロケ地として活用されることもありました。また、地域に根差した活動も積極的に行い、婚活イベント「シネ婚」を100回以上開催し、多くのカップルを誕生させました。2016年（平成28年）春にはテアトル石和サポートクラブが発足し、地域住民が映画館の運営を支える動きも生まれました。

2015年（平成27年）5月11日、社長の有泉英機氏が74歳で死去。有泉忍氏が3代目の社長に就任し、2018年（平成30年）には開館50周年を迎えました。しかし、施設の老朽化や観客の減少に加え、JASRACが映画館からも音楽使用料を徴収することを決定したことなどから、同年2月28日をもって閉館しました。最終上映後にはお別れ会が開催され、50年の歴史を振り返りました。

特色

テアトル石和は、100席の座席を備え、二本立てまたは三本立てで映画を上映していました。入場料は二本立ての場合が900円、三本立ての場合が1200円でした。映画館の周囲にはブドウ畑が広がり、牧歌的な雰囲気が漂っていました。昭和40年代の趣を残す建物は、映画やミュージックビデオのロケ地としても利用されました。

基本情報

所在地：山梨県笛吹市石和町八田291
運営：南嶺映画興行 → 有泉商事
* 観客定員数：170席（1980年）→ 100席（2008年）

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