トム・フォード

トム・フォード（本名：Thomas "Tom" Carlyle Ford、1961年 8月27日生まれ）は、アメリカ合衆国を代表するファッションデザイナーであり、同時に高い評価を得ている映画監督でもあります。自身の名を冠したファッションブランドも世界的に展開しています。

ファッション界での軌跡

デザイナーとしてのキャリアを歩む前に、トム・フォードは多様な経験を積んでいます。ニューメキシコで高校を卒業後、ニューヨーク大学で美術史を学びましたが、俳優を志して中退します。最終的にはデザイン分野に進むことを決め、名門パーソンズ美術大学でインテリア・アーキテクチャを専攻し、1986年に卒業しました。卒業後、デザイナーとしてペリー・エリスやキャシー・ハードウィックのもとで経験を積みました。

1990年、トム・フォードはイタリアへ渡り、グッチのレディースウェア部門のデザインを担当することになります。そして1994年、彼はグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任しました。当時のグッチは経営不振に陥っていましたが、トム・フォードはその大胆で官能的なデザインによってブランドイメージを一新し、見事に再建を果たしました。彼のディレクションのもと、グッチは再び世界のファッション界を牽引する存在となります。この成功により、彼は弱冠にして世界的にその名を知られることとなりました。さらに、2000年にはグッチグループ全体のクリエイティブを統括する立場となり、イヴ・サンローラン・リヴ・ゴーシュを含むグループ全体のクリエイティブ・ディレクターも兼任しました。

しかし、2004年、グッチグループのCEOであったドメニコ・デ・ソーレと共に、トム・フォードはグッチおよびイヴ・サンローランでの役職を退任します。

自身のブランド設立と独立

グッチを離れた翌年の2005年、トム・フォードは長年の盟友であるドメニコ・デ・ソーレと共に、自身の名を冠したファッションブランド「トム・フォード」を設立し、独立を果たしました。このブランドは設立当初から大きな注目を集め、ファッション業界の権威ある賞であるCFDAファッションアワードなど、数々の賞を受賞しています。2008年には、大阪・梅田に直営店がオープンし、日本市場への本格的な進出を果たしました。

「トム・フォード」ブランドは、アパレルを中心に、バッグやシューズ、アイウェアといったアクセサリー、さらにはコスメティクスやフレグランスなど、多岐にわたる高級商品を展開しています。特に、アイウェアやメイクアップ製品は、マルコリンやエスティローダーといったパートナー企業とのライセンス契約のもと製造されており、世界中で広く支持されています。

2022年、トム・フォードは自身のブランドをエスティローダー・カンパニーズに対し、約28億ドル（当時のレートで約3900億円）という巨額で売却することが発表され、大きな話題となりました。

映画監督としての活動

トム・フォードの才能はファッションに留まらず、映画の世界でも発揮されています。2001年には、ファッション業界を舞台にしたコメディ映画『ズーランダー』にカメオ出演し、俳優としてスクリーンデビューを果たしました。

そして2009年、彼はクリストファー・イシャーウッドの小説を原作とした『シングルマン』で念願の映画監督デビューを飾ります。同性愛をテーマにしたこの作品は批評家から高い評価を受け、第66回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門でクィア獅子賞を受賞しました。また、主演を務めたコリン・ファースは同映画祭で男優賞を受賞し、さらには第82回アカデミー賞の主演男優賞にもノミネートされるなど、大きな成功を収めました。

2016年には、長編第2作目となる『ノクターナル・アニマルズ』を発表。この作品もまた高く評価され、第73回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で審査員大賞を獲得しました。出演者のマイケル・シャノンも第89回アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされるなど、映画監督としての地位を確固たるものにしました。

人物像

トム・フォードは自身が同性愛者であることを公にしており、長年にわたりファッション・ジャーナリストで『VOGUE HOMME International』の元編集長であったリチャード・バックリーと関係を築きました。二人は1986年のファッションショーで出会い、27年間の交際を経て2014年に結婚しました。しかし、リチャード・バックリーは病との闘いの末、2021年9月19日に72歳で惜しまれつつ亡くなりました。

多才な人物として、ファッションと映画という二つの分野でトップクラスの成功を収め続けているトム・フォードは、現代におけるクリエイティブのアイコンの一人と言えるでしょう。

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