ノルマンディー級戦艦

ノルマンディー級戦艦：未完成の巨艦と空母への転身

フランス海軍のノルマンディー級戦艦は、第一次世界大戦前夜の軍拡競争の中で計画された、特徴的な超弩級戦艦です。4連装砲塔3基、計12門の45口径13.4インチ主砲を搭載する計画でしたが、第一次世界大戦の勃発、そして戦後のワシントン海軍軍縮条約によって、そのほとんどが完成を見ることはありませんでした。本稿では、この壮大な計画とその悲劇的な結末、そして唯一完成した航空母艦「ベアルン」について掘り下げていきます。

建設の背景と計画

フランス海軍は、弩級戦艦の建造において他国に遅れを取っていました。リベルテ級、ダントン級を経て、クールベ級で弩級戦艦を保有するに至りますが、13.4インチ砲を搭載したプロヴァンス級で超弩級戦艦の建造に成功。その流れを汲んで建造されたのが、ノルマンディー級戦艦です。

1912年の海軍法に基づき、フランス海軍は1922年までに戦艦と巡洋戦艦計22隻を就役させる計画を立てました。ノルマンディー級は、1913年度計画で4隻、1914年度計画で1隻の計5隻の建造が決定されました。各艦の建造は、フランス国内の複数の造船所に分散して発注されました。しかし、第一次世界大戦の勃発により、陸戦兵器の生産が優先された結果、建造は中断。進水した艦艇も、搭載予定であった火砲は地上戦に転用され、機関は小型艦艇に流用されるなど、完成には至りませんでした。

ワシントン海軍軍縮条約とベアルン

大戦終結後、列強各国が新たな軍拡競争に突入する中、フランス海軍の再建は遅々として進みませんでした。この状況下、ノルマンディー級4隻は、1922年のワシントン海軍軍縮条約によって建造中止、解体されることが決定されました。1923年から1924年にかけて解体されました。

しかし、建造が遅れていた5番艦「ベアルン」は、既に進水していたため、建造継続が決定されました。フランス海軍は同条約で6万トンの航空母艦保有枠を獲得しており、この「ベアルン」の船体を活用して、航空母艦に改造されることになったのです。1923年に建造が再開され、幾度かの試験航海を経て、1928年にフランス海軍初の航空母艦として竣工しました。

艦型と武装

ノルマンディー級戦艦は、船体前部2/3に船楼が続く長船首楼型船体でした。艦首には4連装13.4インチ砲塔1基が配置され、艦橋、煙突、後部甲板上に残りの2基が配置されていました。主砲は「1912年型34cm（45口径）砲」で、当時の戦艦としては画期的な4連装砲塔に収められていました。この4連装砲塔は、重量軽減と被弾リスク分散という点で優位性がありました。主砲の俯仰角は-5度～+18度、旋回角は左右150度でした。発射速度は毎分2発で、最大射程は18,000mに達しました。

副砲には13.9cm（55口径）砲24門、4.7cm高角砲4門、45cm水中魚雷発射管6門を搭載していました。

機関と防御

機関は、巡航時の燃料消費率を考慮し、レシプロ機関とタービン機関の併用方式が採用されました。重油・石炭混焼缶21基、直結タービン2基、レシプロ機関2基を組み合わせて4軸推進を行い、最大出力は32,000SHP、速力は21ノットとされていました。

防御方式は全体防御方式で、水線部に厚さ280mm～300mmの装甲が配されました。主砲塔の前盾には340mm～250mmの装甲が張られ、堅牢な防御力を備えていました。

未完の巨艦

ノルマンディー級戦艦は、完成すればフランス海軍の主力戦艦として活躍したであろう、強力な戦艦でした。しかし、歴史の波に翻弄され、未完成のまま解体された4隻と、空母に転身した1隻という、複雑な歴史を持つ艦級となりました。その設計思想や建造過程は、後の戦艦設計や、海軍戦略に大きな影響を与えたと言えるでしょう。建造中止という結果に終わったものの、その計画や技術的試みは、後の戦艦の設計や近代化に活かされた側面もあります。 また、ノルマンディー級の建造計画は、第一次世界大戦やワシントン海軍軍縮条約といった国際情勢と、フランス海軍の技術力と戦略の両面を反映したものであり、軍事史の重要な一端を担っています。

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