ハシブトガラス

ハシブトガラス（嘴太烏）について

ハシブトガラス（学名：Corvus macrorhynchos）は、スズメ目カラス科に属する鳥類です。日本では、ハシボソガラスと並んで「カラス」として広く認識されています。

分布

ハシブトガラスは、ユーラシア大陸東部に広く分布しています。日本では、小笠原諸島を除く全国で、低地から山地まで様々な環境で見ることができます。留鳥として一年を通して生息しています。

形態

成鳥の体長は翼を広げた状態で33～38cm、くちばしの長さは約60mmです。全身が黒色で、羽には紫色の金属光沢があります。雌雄同色で外見上の区別は困難です。まれに白い個体が見つかることがあり、これはアルビノまたは白変種と考えられています。幼鳥は虹彩が青色や灰色で、口の中がピンク色をしているなど、成鳥とは異なる特徴を持っています。

類似種

ハシボソガラスは、ハシブトガラスに比べてやや小型で、くちばしの曲がりが小さく、額の出っ張りが少ないことで区別できます。また、鳴き声も異なります。南西諸島に分布するハシブトガラスの亜種は、本種よりも小型です。

生態

ハシブトガラスは、本来森林に生息するカラスでしたが、近年では都市部にも分布を拡大しています。これは、都市部が食料が豊富で、止まり木となる構造物が多いこと、天敵となる猛禽類が少ないことなどが要因として挙げられます。食性は雑食で、昆虫、木の実、動物の死骸など、あらゆるものを食べます。特に脂質を好み、石鹸やロウソクを誤って持ち去ることもあります。また、スズメなどの小鳥やネズミ、リス、昆虫、鳩、コウモリといった小動物を捕食することもあります。高い場所から地上を見下ろして餌を探し、見つけると地上に降りて捕食し、再び高所に戻って食べるという行動を繰り返します。鋭いくちばしは、つつくだけでなく、咬む力にも優れており、肉を引きちぎって食べることも可能です。

ハシボソガラスよりも肉食性が強い傾向にあり、マヨネーズの残りかすや獣脂を求めて生ゴミを漁ることも多いです。一方、ハシボソガラスはクルミなどの硬い殻を持つ実を割るために車道に落として車に轢かせるなど、知恵を使った行動をすることが知られています。

カラスは非常に知能が高く、一般的に5～7歳児と同程度の知能を持つと言われています。遊びの概念も持っており、木の枝にジャンプで届くか試すなど、生存に直接必要のない行動をとることも観察されています。

繁殖期は4月頃で、樹林内の大木に木の枝などで巣を作ります。一度に2～5個の卵を産み、メスが約20日間抱卵します。雛への給餌は雌雄で行い、孵化後約1ヶ月で巣立ちます。その後、約4ヶ月程度は家族で行動し、独立します。若鳥は約3年間群れで行動し、その間にペアになり、縄張りを形成します。

夜間は、人の立ち入らない森林に集団でねぐらをとる習性があり、冬期には特に多数が集まります。また、雪浴び、蟻浴、煙浴、薬浴など、様々な方法で入浴を行うことも知られています。

飼育下での寿命は約20年、野生下では10～20年程度と考えられています。

人間との関係

都市部におけるハシブトガラスの増加は、都市のゴミ問題や生態系に影響を与える要因となっています。近年、黒色のゴミ袋の使用が規制され、透明・半透明のゴミ袋が使われるようになったことで、カラスがゴミを漁るのが容易になったことが、その数を増やす要因の一つとして指摘されています。自治体では、ゴミ置き場にネットをかける、夜間にゴミ収集を行うなどの対策が取られています。

また、カラスの4色型色覚を逆手に取り、紫外線を遮断する特殊な顔料を混ぜた黄色いゴミ袋も開発されています。

繁殖期には、巣の近くを歩く人を攻撃することもあるため注意が必要です。成鳥はなかなかトラップにかかりませんが、若鳥は経験不足から捕獲されることもあります。記憶力が非常に高く、危険な経験をすると警戒心が強くなりますが、幼鳥から飼育すると人によく懐き、言葉を真似るなど愛玩鳥としての側面も持ち合わせています。

日本では、狩猟鳥獣に指定されており、定められた期間、地域で狩猟が可能です。

日本国内の亜種

日本国内には、以下の亜種が生息しています。

ハシブトガラス (Corvus macrorhynchos japonensis)：北海道から九州にかけて分布。
チョウセンハシブトガラス (Corvus macrorhynchos mandshuricus)：対馬付近に分布し、亜種ハシブトガラスよりもやや小型。
リュウキュウハシブトガラス (Corvus macrorhynchos connectens)：奄美群島以南の南西諸島に分布し、亜種ハシブトガラスよりもやや小型。
オサハシブトガラス (Corvus macrorhynchos osai)：八重山列島に分布し、亜種ハシブトガラスよりも小型。

参考資料

柴田佳秀『カラスの常識』
松原始『カラスの教科書』
カラス研究室 - ウェイバックマシン
Crows!! ~意外と知られていないカラスの真実~
いきもの通信　カラス関連情報
カラス~都市におけるカラス問題
* NPO法人札幌カラス研究会

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