ハッピー!

波間信子による漫画『ハッピー!』は、講談社の『BE・LOVE』誌上で1995年から2010年まで連載された人気作です。その後、続編となる『ハッピー! ハッピー♪』が2010年から2021年まで連載され、長いシリーズとして多くの読者に愛されました。累計発行部数は2020年12月時点で400万部を突破しています。

物語は、スキー事故により視力を完全に失った女性、湊香織（旧姓：高野）を中心に展開します。突然の失明という絶望的な状況に置かれ、家族や友人の支えがありながらも、失明前に付き合っていた恋人との関係も破綻し、香織は深い孤独と失意の中に沈んでいました。親友の希は彼女に盲導犬との生活を勧めますが、盲導犬を得ることの難しさを知る香織は、無闇に期待することを避けていました。

しかし運命は巡り、香織のもとに盲導犬となるメスのラブラドール・レトリバー、ハッピーがやって来ます。ハッピーとの出会いは、香織の人生に再び光と希望をもたらします。ハッピーは盲導犬としての役割を果たすだけでなく、その明るく賢い性格で、香織のみならず周囲の人々のわだかまりや悩みを解決し、皆を「ハッピー」にしていきます。ハッピーとの生活を通じて、香織は匂いや音への感覚が研ぎ澄まされ、失われた視覚を補う新たな能力が開花します。また、時間がかかりながらも家事をこなせるようになり、人の感情の機微にも敏感になっていきます。

物語の中で、香織は獣医の湊昇と出会います。昇はハッピーを介して香織に惹かれ、二人はやがて結婚し、明光、そして後に光晴という二人の息子を授かります。目の見えない中での結婚生活や子育てには様々な困難が伴いますが、香織は家族の愛とハッピーの助けを得て、懸命に乗り越えていきます。特に子育てにおいては、子供たちの成長を目で確かめられないことへの葛藤や、自身の視覚障害ゆえの過剰な心配から後ろ向きな思考に陥ることもありますが、それらを乗り越え、母親として成長していきます。

ハッピーが老いてリタイアした後は、2頭目の盲導犬としてティンクルが香織のもとへやって来ます。前の飼い主との死別から心を閉ざしていたティンクルも、香織一家との共同生活を通じて、次第に心を開いていきます。

主要登場人物以外にも、物語には個性豊かな人々が登場します。香織を支える両親、仕事人間ながら動物への愛情深い昇の両親（特に犬嫌いだった父がハッピーをきっかけに変わる過程）、香織の親友で夫の死や再婚を経験する希、香織に密かに想いを寄せ続けた潮田、盲導犬訓練士の奥田千夏、ハッピーのパピーウォーカーであった春日ちかなど、それぞれの人生ドラマが描かれ、物語に深みを与えています。

この作品は、単に視覚障害者の日常を描くだけでなく、盲導犬と人間の深い絆、家族の支え、友人との友情、そして逆境に立ち向かい成長していく人間の強さを感動的に描き出しています。様々な困難や悲しみを乗り越えながらも、希望を失わず前向きに生きる主人公たちの姿が、読者に勇気と感動を与えます。

『ハッピー!』は、1999年と2000年にテレビ東京系で高岡早紀主演によりテレビドラマ化もされており、『ハッピー 愛と感動の物語』として放送されました。文庫版も複数巻が刊行されており、長く読み継がれている作品です。

単行本は講談社〈KC BE・LOVE〉より、文庫版は講談社〈講談社漫画文庫〉より刊行されています。

主な文庫版情報：
『盲導犬ハッピーがやって来た! 編』（第1巻 - 第3巻）
『盲導犬ハッピーと歩こう! 編』（第3巻 - 第5巻）
『盲導犬ハッピーと子育て! 編』（第5巻 - 第7巻）
『幸せを運ぶ盲導犬・ハッピー! 編』（第7巻 - 第9巻）
『希望の星・盲導犬ハッピー! 編』（第9巻 - 第12巻）
『盲導犬ハッピーと新しい生命 編』（第12巻 - 第14巻）
『盲導犬ハッピーの誕生日! 編』（第14巻 - 第16巻）
『盲導犬ハッピーと点字の日記 編』（第16巻 - 第18巻）
『信頼のかたまり・盲導犬ハッピー 編』（第19巻 - 第21巻）
『盲導犬ハッピーと心の歌 編』（第21巻 - 第23巻）

（文庫版巻数表記は当時のものです）

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