ハーミット

競走馬ハーミット：ダービーの奇跡と種牡馬としての成功

1864年から1890年にかけて活躍した競走馬ハーミットは、イギリス競馬史にその名を刻むサラブレッドです。エプソムダービー制覇という栄光だけでなく、種牡馬としても類まれな成功を収め、その血統は現代の競馬界にも影響を与え続けています。

穏やかな性格とダービー制覇

ハーミットは、競走馬としては1866年から1869年にかけて23戦8勝という成績を残しました。特に、エプソムダービーとセントジェームズパレスステークス優勝は、その実力を証明するものです。総獲得賞金は41,261ポンドに上ります。記録によると、ハーミットは穏やかで優しく、非常に従順な性格だったと伝えられています。晩年には、馬主のヘンリー・チャップリンの幼い息子を背に乗せて遊ぶ姿が見られたという逸話も残っています。

1000対15のオッズを覆した奇跡

ハーミットの競走馬としての生涯で最も有名なエピソードは、なんといってもエプソムダービーでの勝利でしょう。このダービーには、ドラマチックな背景がありました。馬主のチャップリンは、結婚式当日に婚約者をヘイスティングズ侯爵に奪われるという屈辱を味わっていました。ヘイスティングズ侯爵は、ハーミットがダービーで勝つ見込みがないと高を括り、チャップリンに全財産を賭けたのです。

ダービーの1週間前、ハーミットは鼻出血を起こし、勝つ見込みは低いとされていました。そのため、単勝オッズは1000対15という人気薄でした。しかし、チャップリン陣営は必死にハーミットの体調回復に努めました。

ダービー当日、異常気象により、6月にもかかわらず激しく雪が降る悪天候となりました。スタートは10回もやり直され、1時間もの遅延が発生。小柄なハーミットは雪の中でみすぼらしく見え、「故障馬」「死体」と酷評されたほどでした。しかし、気性の穏やかなハーミットは、他の馬たちのいら立ちとは対照的に落ち着いていました。

レースでは好位につけ、最後の直線でマークスマンを首差交わし、奇跡的な勝利を収めました。チャップリンは名誉と10万ポンドの大金を獲得し、騎手と調教師にも多額の賞金を分け与えました。一方、ヘイスティングズ侯爵は12万ポンドもの大金を失い、その後も競馬を続けましたが、借金を増やすばかりでした。チャップリンはヘイスティングズ侯爵の債務の支払いを猶予する申し出をしましたが、侯爵は後悔の念に苦しみ、翌年26歳で亡くなりました。

政界進出と種牡馬としての成功

ダービー勝利で得た賞金を元手に、チャップリンは政界に進出しました。同年の庶民院議員選挙で当選し、政治家としてのキャリアをスタートさせ、後にチャップリン子爵に叙せられました。

ダービー後、競走馬としては目立った活躍はありませんでしたが、ハーミットは種牡馬として新たな成功を収めます。1880年から1886年まで7年連続でイギリス種牡馬チャンピオンに輝き、その名声を不動のものにしました。1890年、繋養されていたブランクニーホールスタッドで死亡しました。

血統と現代への影響

ハーミットの父系子孫はそれほど広がりませんでしたが、その影響は現代の競馬界にも及んでいます。フランスで活躍したヒューム、日本でリーディングサイアーを獲得したガーサントなどがその代表です。

サラブレッドとしては衰退の一途を辿る中、アメリカに渡ったハーミット系の血統がクォーターホースの世界で驚異的な成功を収めました。Three Bars、Rocket Bar親子、そして史上最強のクォーターホースと呼ばれるダッシュフォーキャッシュなど、多くの名馬を生み出し、現代のクォーターホースの血統の大部分を占めるまでに至っています。

ハーミットは、競走馬としての華々しい活躍だけでなく、種牡馬としての成功、そして現代のクォーターホースへの多大な影響を通じて、競馬史に不滅の足跡を残した偉大なサラブレッドと言えるでしょう。

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