バロット

バロットとは

バロット（balut）は、孵化直前のアヒルの卵を加熱したゆで卵で、東南アジアの広い地域で食されている珍味です。特にフィリピンとベトナムでポピュラーで、滋養強壮に良い食品として親しまれています。

地域によって呼び名が異なり、ベトナムでは「チュンヴィロン」または「ホヴィロン」、カンボジアでは「ポンティアコーン」、中国では「毛蛋」「死胎蛋」「鴨仔蛋」などと呼ばれています。

概要

バロットは、高級料理ではなく、屋台や庶民的な食堂で気軽に食べることができます。フィリピンでは自転車で売り歩く姿も見られ、バーではお酒のおつまみとしても提供されています。殻の中には雛の姿が形成されており、羽根や嘴が確認できる状態で食べられます。

種類と調理法

フィリピンでは、卵の状態によって呼び方が異なります。雛の形ができつつある状態の有精卵を「アブノイ」、形が作られたものを「バロッ」、殻を破って出てくる直前のものを「ウコボ」と区別します。アブノイは独特の臭気があり、バロッは茹でて食べるのが一般的です。ウコボは茹でるよりも、中身を取り出して串焼きや鉄板焼きにすることが多いです。

中国では、アヒルの卵だけでなく、ニワトリの卵を使った「雞仔蛋」も存在します。ベトナムでは、ウズラの卵を用いた「ホットクットロン」も人気です。

食べ方

バロットは、通常、茹でて食べます。18日目の卵が最も美味しいとされ、十分に茹でたものを食します。殻ごと提供される場合は、まず卵の丸い部分に穴を開け、中のスープをすすります。その後、塩やハーブ、柑橘類の果汁(または酢)などを加え、スプーンでかき混ぜてから食べます。胎盤や羽根などの食感が気になる場合は、取り除いて食べることもあります。

ベトナム北部などでは、予め器に割り入れて提供されることもあります。

食味

バロットの特徴は、孵化直前の雛の嘴や骨があることによる、エビ殻のようなパリパリとした食感と、濃厚な味わいです。卵の生育状態によって味が異なり、孵化直前のものは鶏肉に近い味がし、卵に近いものは卵黄の塊を食べているような味がします。

衛生上の注意

バロットを食べる際には、衛生面に注意が必要です。正常に生育しているものを茹で、茹でたその日に食べる場合は問題ありませんが、孵化しようとして殻に穴が開いたものや、孵化途中で力尽きたもの、茹でてから時間が経ったものは、サルモネラ菌や大腸菌などの食中毒の原因となる細菌が含まれている可能性があります。これらの卵は食べないようにしましょう。

まとめ

バロットは、東南アジアの食文化を代表するユニークな食べ物です。見た目に抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、その独特の食感と味は一度試す価値があります。ただし、衛生面には十分注意して、安全なものを食べるように心がけましょう。

参考文献

石毛直道「バロッてなんだ」『食文化 新鮮市場』毎日新聞社、東京、1992年。
石毛直道「ハオチー！鉄の胃袋中国漫遊 広東Ⅰ」『太陽』、平凡社、1983年11月。
* 池田浩明『ベトナム : ベトナム料理』（第2）情報センター出版局〈食べる指さし会話帳 ; 3〉、2003年。ISBN 4-7958-2393-6。

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