フィプロニル

フィプロニルとは

フィプロニル（fipronil）は、ローヌ・プーラン（現バイエルクロップサイエンス）によって開発された、フェニルピラゾール系の殺虫剤です。この化合物は、ノミ、ゴキブリ、アリ、シロアリなど、広範囲の害虫に対して効果を発揮します。

特徴

フィプロニルは、昆虫の神経系に作用し、神経伝達物質であるGABAの働きを阻害することで、神経の過剰な興奮を引き起こし、最終的に麻痺させて殺虫します。この作用機序により、従来の殺虫剤とは異なるアプローチで害虫を駆除できるのが特徴です。

また、フィプロニルは遅効性であるため、餌に混ぜて使用した場合、摂取した個体が巣に帰還してから死に至るという特徴があります。この遅効性を利用することで、特にゴキブリやアリなどの社会性昆虫に対しては、巣全体に効果を拡散させる「ドミノ効果」が期待できます。これは、フィプロニルを摂取した個体の糞や死骸を他の個体が食べることで、巣全体の個体数を減らすことができるというものです。

毒性

フィプロニルは、その殺虫効果の高さと同時に、毒性も持ち合わせています。日本では、化学物質排出把握管理促進法（PRTR法）の第1種指定物質に指定されており、環境への影響が懸念されています。

また、ミツバチの蜂群崩壊症候群の原因の一つとして、ネオニコチノイド系殺虫剤とともに指摘されています。哺乳類に対する毒性も無視できず、ラットやマウスを用いた実験では、経口摂取による半数致死量（LD50）がそれぞれ92mg/kg、49mg/kgと報告されています。

ヒトに対する影響としては、軽度の意識障害が報告されており、一日許容摂取量（ADI）は非常に低く設定されています。これは、毎日、一生涯にわたって摂取し続けても健康に悪影響がないと考えられる量を示しており、フィプロニルのADIは0.00019mg/kg/dayと、日本の登録農薬の中でも非常に厳しい制限を受けています。例えば、2008年の中国製冷凍餃子中毒事件で問題となったメタミドホス（ADI:0.0006mg/kg/day）よりも、さらに低い値です。

家庭用ゴキブリ駆除剤に含まれるフィプロニルの量は、ADIの数千倍にもなる場合があり、分解によって生成されるフィプロニルスルホンは、フィプロニルよりも強い毒性を持つことが報告されています。特に、ウサギに対しては毒性が強く、死亡や呼吸困難を引き起こす危険性があるため、フィプロニルを含むノミ・マダニ駆除薬の使用は禁忌とされています。

さらに、現在の農薬安全基準では想定されていない毒性を持つ可能性も指摘されており、特に幼児の神経系や脳への影響が懸念されています。

フィプロニルを含有する製品

フィプロニルは、ゴキブリ駆除剤をはじめ、ペット用ノミ駆除剤、シロアリ駆除剤、アリ駆除剤など、様々な製品に使用されています。

主な製品例:

ゴキブリ駆除剤: コンバット、ブラックキャップ、ゴキファイターシリーズなど
ペット用ノミ駆除剤: フロントライン
シロアリ駆除剤: アジェンダ
その他: アリの巣コロリ、プリンス、スズメバチの巣撃滅駆除エサタイプなど

歴史

フィプロニルは、1985年から1987年にかけてローヌ・プーラン社によって開発され、1993年に商品化されました。開発当初から、その高い殺虫効果が注目され、世界中で広く利用されるようになりました。

しかし、2013年以降、欧州連合（EU）では、農薬としてのフィプロニルの使用が禁止され、他の農薬への切り替えが進められました。2014年には、EUで全面的に使用が禁止されたため、ペット用ノミ駆除薬「フロントライン」もEUでは入手できなくなりました。

鶏卵汚染問題

2017年、ヨーロッパを中心に大規模な鶏卵汚染問題が発生しました。フィプロニルによって汚染された鶏卵が多数発見され、市場から回収されました。この問題は、オランダ、ベルギー、ドイツなどの国々に広がり、数百万個の鶏卵が廃棄される事態となりました。

この事件の背景には、ダニ駆除用の薬剤にフィプロニルが混入していたという事実があります。本来、フィプロニルは農薬として使用する際には残留基準が定められていますが、鶏舎内での使用は違法であり、問題を引き起こしました。

捜査の結果、オランダの害虫駆除業者「ChickFriend」が、フィプロニルが混入した薬剤を多くの養鶏場に販売していたことが判明しました。この事件は、食品の安全管理の重要性を改めて認識させるものとなりました。

まとめ

フィプロニルは、広範囲の害虫に対して高い効果を発揮する殺虫剤ですが、その一方で毒性も持ち合わせています。特に、鶏卵汚染問題は、フィプロニルの取り扱いにおける危険性と、食品安全管理の重要性を示唆する事例となりました。今後のフィプロニルの使用においては、より慎重な管理と規制が求められるでしょう。

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