フレイルチェスト

フレイルチェスト、別名「動揺胸郭」とは、単一または複数の肋骨がそれぞれ2箇所以上で骨折し、その結果、呼吸運動に伴い胸壁の一部が異常な動きを示す状態を指します。正常な呼吸運動では、吸気時に胸郭が広がり、呼気時に狭まりますが、フレイルチェストの場合、骨折した肋骨は胸腔内圧の変化に対して他の肋骨とは異なる、逆の動きをします。この異常な動きは、まるで中世の武器であるフレイルのように見えることから、この名が付けられました。

病態

通常の呼吸時、呼気時には肋骨が尾側に回転して肺を押し縮めます。しかし、フレイルチェストでは、2箇所以上で骨折した肋骨は、呼気時の胸腔内圧上昇によって逆に遠位に動揺します。一方、吸気時には胸腔内圧が陰圧になることで、骨折した肋骨は近位に動揺します。この一連の動きによって、胸郭の安定性が損なわれ、呼吸運動が非効率になります。

症状

フレイルチェストは、患者に激しい痛みを引き起こし、呼吸を著しく困難にします。このため、十分な酸素を取り込むことができなくなり、重症化すると呼吸不全に陥る危険性があります。

応急処置

フレイルチェストの応急処置は、動揺を最小限に抑えることが重要です。具体的には、以下の手順で行います。

1. 患部の固定: 布などを厚く重ね、骨折した部位をゆっくりと、しかししっかりと押さえます。これにより、肋骨の異常な動きを制限します。
2. 固定の保持: 押さえた布などをテープなどで身体に固定し、動かないようにします。この処置により、患者の苦痛を軽減し、さらなる損傷を防ぎます。

治療

フレイルチェストの根本的な治療は、呼吸を安定させ、胸郭の動きを正常に戻すことにあります。主な治療法は以下の通りです。

気管挿管と人工呼吸器: 呼吸状態が著しく悪化している場合は、気管挿管を行い、人工呼吸器によって呼吸をサポートします。これにより、胸郭の動揺を最小限に抑えることができます。
鎮静: 人工呼吸器管理を行う際は、鎮静剤を使用して患者の苦痛を和らげます。ただし、鎮静や挿管による管理は長期間にわたると合併症のリスクがあるため、数日程度の限定的な使用に留めるべきです。
合併症の管理: フレイルチェストでは、血胸や気胸がほぼ必発です。特に、緊張性気胸を発症した場合は、速やかな処置を行わないと予後が非常に悪くなることがあります。

注意点

フレイルチェストは、重篤な呼吸障害を引き起こす可能性のある、緊急性の高い疾患です。早期の適切な対応が、患者の予後を大きく左右します。もし、フレイルチェストの疑いがある場合は、速やかに専門医の診察を受けるようにしてください。

関連事項

病態生理学: フレイルチェストの病態を理解するためには、呼吸器系の生理学的な知識が不可欠です。胸郭の構造、呼吸運動のメカニズム、そして胸腔内圧の変動について深く理解しておくことが大切です。

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