プリントゴッコ

プリントゴッコ：家庭用孔版印刷器の隆盛と終焉

1977年から2008年まで、理想科学工業によって販売されていた家庭用簡易孔版印刷器「プリントゴッコ」。その31年間の歴史と、独自の印刷技術、そして市場における成功と衰退を紐解いていきます。

経営危機からの脱出と新たな技術

理想科学工業は、それまで業務用謄写版機器のメーカーとして知られていました。しかし、感熱製版機の開発における大規模な設備投資の失敗によって経営危機に陥ります。この危機を打開すべく、同社は事務用孔版印刷機「リソグラフ」と共に「プリントゴッコ」の開発に着手しました。

「プリントゴッコ」は、従来の謄写版とは異なる印刷技法を用いています。版と版の保持材を一体化した「マスター」を使用し、鉛筆やインクで書いた版下を、赤外線でフィルムを溶かす感熱製版技術によって印刷版を作成します。この技術は、シルクスクリーン印刷における工程を簡略化したものであり、家庭での手軽な印刷を可能にしました。このシステムは「RISOドライ感熱製版システム」として、後のリソグラフや他の製版機にも応用されています。

家庭への普及と需要の変遷

1980年代には、年賀はがき印刷の需要の高まりを受け、「プリントゴッコ」は爆発的に普及しました。全国の小売店を通してマスターやインクなどの消耗品も供給され、家庭での印刷文化を大きく変えました。CMキャラクターには、三波伸介氏、ビートたけし氏、タモリ氏など、当時の人気タレントを起用し、その知名度をさらに高めました。年間72万台を販売した年もあり、その人気は社会現象と言えるほどでした。

しかし、1990年代後半からのパソコンとインクジェットプリンターの普及、そしてインターネットの普及による年賀はがき印刷需要の減少によって、「プリントゴッコ」の需要は急速に縮小しました。インクジェットプリンターの高画質化、低価格化という競争の中で、金、銀、蛍光色などの特殊インクによる印刷を強みとして生き残りを図りましたが、時代の流れには逆らえず、2008年6月に本体の販売を終了しました。消耗品の販売も2012年12月に終了し、31年の歴史に幕を閉じました。

プリントゴッコの仕組み

製版

「プリントゴッコ」は、熱で溶解するフィルムとスクリーンを一体化したマスターを使用します。このマスターは、理想科学工業が供給する専用品のみが使用可能でした。本体は印刷器と製版器を兼ねており、マスターに版下を圧着させ、フラッシュランプの発光によって版下の黒い部分に熱を与え、フィルムを溶かしてインクが通過する微細な穴を作成します。フラッシュランプは、使用ごとに交換する必要がありました。

印刷

印刷は、マスターにインクを乗せ、印刷用紙を圧着することで行います。シルクスクリーン印刷とは異なり、インクの大きな移動がないため、複数の色のインクを同時に使用することが可能でした。粘着剤付きの専用スポンジシートを使用することで、インクの混色を防ぐ工夫もされていました。

プリントゴッコjetとその後

2003年には、デジタル複合インクジェットカラープリンター「プリントゴッコjet」が発売されました。これは、従来のプリントゴッコとは異なり、デジタル技術を用いた製品であり、従来の資材は使用できませんでした。この製品は、事務用のデジタル複合機「オルフィス」シリーズの家庭用簡易版として位置付けられていました。

「ゴッコ」の名前は、2011年に発売されたデジタルスクリーン製版機「ゴッコプロ」シリーズに受け継がれています。

まとめ

「プリントゴッコ」は、日本の家庭における印刷文化に大きな影響を与えた製品でした。その技術的な特徴、市場での成功と衰退は、技術革新と市場ニーズの変化を反映する象徴的な事例と言えるでしょう。 その存在は、多くのユーザーにとって、懐かしい思い出として記憶されているのではないでしょうか。

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