ホオズキカメムシ
ホオズキカメムシ（学名：Acanthocoris sordidus）は、カメムシの仲間であるヘリカメムシ科に属する一種です。その名の通り、ホオズキを含むナス科植物を中心に、農作物に被害をもたらす農業害虫として知られています。一方で、彼らが示すユニークな社会行動は、学術的な研究対象としても注目されています。地域によってはホオズキヘリカメムシとも呼ばれます。
一見すると地味な褐色をしたカメムシですが、オオヘリカメムシなどに通じる、どこか厳つい印象を与える体つきをしています。特に、前胸部の両肩が張り出し、雄の後ろ脚が太く発達しているのが特徴的です。体長はおよそ11ミリメートルから12ミリメートル。
身体全体は黒褐色で、短い毛が密に生えています。頭は小さく、長い触角は4つの節から成り、2節目が最も長く、先端の4節目は棍棒状で一番短くなっています。前胸の背面は前方へ向かって傾き、その前縁には細かい鋸の歯のような突起が並びます。また、背中の真ん中にはやや色の薄い縦の筋が見られます。小さめの三角形をした小楯板を持ち、翅の先端は腹部の端に達し、膜状の部分は暗い褐色で光沢があります。体の腹面や脚は背面よりも色が薄く、少し赤みを帯びています。脚の腿節（太ももの部分）は太く、特に後ろ脚は大きく膨らんでいます。脛節（すねの部分）の根元近くには淡い色の斑紋があります。腹部の背面は鮮やかな赤褐色をしています。
ホオズキカメムシという和名は、当然ながらホオズキに多く見られるカメムシであることに由来します。しかし、このホオズキという植物の名前そのものが、実はこのカメムシに由来するという興味深い説が示されています。この説によれば、古い時代にはカメムシを「ホウ」と呼んでおり、「ホウ」が付く植物だからホオズキとなったというものです。江戸時代の学者、貝原益軒が宝永5年（1709年）に著した『大和本草』には、「ホヽツキト云ハホヽト云臭虫コノンテ其葉ニツキテ食スル故ナリ（ホオヅキという名は、ホウという名の臭い虫が好んでその葉に付いて食べるからだ）」と記されており、これがホオズキカメムシを指していると考えられています。つまり、ホオズキカメムシの名前は「このカメムシが好んで集まる植物に付くカメムシ」という、少し回りくどい、循環した意味合いを持っていることになります。
日本では本州、四国、九州、そして琉球列島に広く分布し、日本以外では台湾、中国、朝鮮半島にも生息しています。
一年を通して、成虫は年に1回または2回発生すると考えられています。成虫は4月下旬から5月頃に食草の上に姿を現し、産卵します。卵は長径約1.4ミリメートル、蛤のような形をしており、金色の光沢を放ちます。10個から30個ほどの卵を、葉の裏に少し間隔を空けて産み付けます。孵化したばかりの若い幼虫は白い粉をまとったような姿をしていますが、成長した幼虫は成虫に似てきます。幼虫が多く見られるのは6月から7月ですが、9月頃まで観察できます。新しい成虫は8月下旬から現れ始めます。
ホオズキカメムシは、ナス科のナス、トマト、トウガラシ、ホオズキや、ヒルガオ科のアサガオ、サツマイモなど、多様な作物に被害を与えます。幼虫は主に葉や茎から、成虫は茎から植物の汁を吸います。大発生すると、吸汁された茎葉の成長が止まってしまいます。被害が深刻になるのは、通常6月から9月にかけてです。タバコにも飛来することがあり、根元の茎から吸汁したり、葉に産卵したりすることもありますが、孵化した幼虫は成長できず、タバコに対する実質的な被害は少ないとされています。
このカメムシは、生活史の様々な段階で集団を形成する習性を持っています。一方で、雄の成虫は縄張りを持つという対照的な性質も見られます。
特に若い幼虫、中でも1齢幼虫は強い集合性を示し、全ての個体が頭を集団の外側に向けて円形に並ぶという、非常に特徴的な集まり方をします。この集団形成は、足場となる場所の構造に関わらず、平らな紙の上でも見られます。ばらばらにされた幼虫が動き回り、たまたま2匹が触れ合うと動きを止めて集まり始めます。そこに他の個体が触れると次々と加わり、集団は大きくなります。この時、触れ合った幼虫は触角を動かして相手を確認するような仕草をした後、向きを変えてお尻側から集団に接触していきます。このようにして、全個体の頭が外側を向いた円形の集団が作られるのです。この行動は、個体間の接触によって引き起こされると考えられており、その感知には触角が重要な役割を果たしています。触角を切除すると、集合行動は起こらなくなります。
単独で飼育した幼虫と集団で飼育した幼虫を比較すると、興味深い違いが見られます。1齢幼虫は卵の栄養で成長するため、この段階での成長や生存率に集団か単独かの差はほとんどありません。しかし、摂食を開始する2齢から3齢にかけては、単独飼育の方が成長が遅れ、発育にばらつきが出る傾向があります。ところが、4齢から5齢になると、逆に単独飼育の方が成長が速まるという結果も出ています。自然環境下での観察では、1齢幼虫はほとんど動かず集団を作りますが、2齢以降は動きながら集団を作ったりばらけたりを繰り返し、やがて特定の植物に集まって大きな集団を作ります。3齢から4齢はこの集団で過ごし、終齢である5齢になると再び活発に移動を始め、それまで利用していなかった植物にも分散していきます。これは、集団で高密度で過ごすことの利点を享受しつつ、その密度が高まることによる悪影響が現れ始めると、集団の形態を変えたり分散したりしてそれを避けるという、巧妙な行動調節を行っていることを示唆しています。また、移動しない1齢幼虫の集団は、同一の卵塊から生まれた血縁集団です。もし天敵に襲われた際に、一部の個体が犠牲になって警報フェロモンを放出し、他の血縁個体を逃がすのであれば、これは血縁選択という観点から、一見利他的に見える行動も説明がつくと考えられます。
このような幼虫の集団は、天敵が現れると劇的に変化します。例えば、ホオズキカメムシ1齢幼虫の集団に捕食者であるナミテントウを近づけると、テントウが1匹の幼虫に触れた瞬間、他の全ての幼虫が一斉に動き出して逃げ出したり、そのまま落下したりします。頭を外側に向けた円形の集団が、まるで花火が散るように瞬時に解消する様子が見られます。逃げ出した幼虫たちは、約1時間後には同じ葉に戻って再び集団を形成します。テントウムシは獲物を捕まえると、その周辺を重点的に探索する習性がありますが、幼虫のこの素早い散開行動は、天敵の探索範囲から逃れるのに有効であると考えられます。集団が散開するきっかけとなる刺激は、幼虫が放つ悪臭であり、これが仲間に危険を知らせる警報フェロモンとして機能していると考えられています。
成虫においても雌は集団を形成する傾向がありますが、雄は互いにある程度の距離を保って生活しています。これは雄が縄張りを形成するためです。雄は雌の集団を含む範囲を自分の縄張りとし、そこにいる雌との交尾権を独占しようとします。縄張りの雄がいなくなると、別の雄が入り込み、その雌たちと交尾します。他の雄が縄張りに侵入してくると、縄張り雄は素早く突進し、多くの場合、それだけで侵入雄は退散します。それでも侵入雄が引き下がらない場合は、両者は向き合い、発達した後ろ脚を使って相手の胴体を挟みつけようとします。相手を締め付けようとするこの闘争は、通常は数分で終わりますが、まれに1時間を超えることもあります。闘争中に両者とも地面に落ちてしまうこともありますが、その後の行動は大きく異なります。縄張り雄はすぐに体勢を立て直し、できるだけ速やかに縄張りに戻ろうとしますが、侵入雄はそれほど急がず、ゆっくりと元の場所や別の場所に移動します。
縄張りに失敗した雄（あぶれ雄）にとって、交尾の機会を得る主な手段は、他の雄から縄張りを奪うことです。縄張り雄と侵入雄の闘争では、一般的に縄張り雄が有利ですが、侵入してきたあぶれ雄の方が体が大きい場合は、縄張り雄の勝率は7割程度になると言われています。つまり、あぶれ雄は自分より小さな縄張り雄に積極的に挑めば、3回に1回程度は縄張りを獲得できることになります。この結果、体の小さな雄があぶれやすくなる傾向が見られます。縄張り雄の目を盗んでの交尾は非常にまれであり、もし見つかれば、縄張り雄はたとえ自分が交尾中でもそれを妨害します。
しかし、縄張りを維持するにはコストがかかります。侵入してくる他の雄が多い場合、縄張りを放棄する雄も出てきます。実験的に雄の密度を高めると、雌の数が多い、つまり他の雄の侵入が多い植物では、縄張りが崩壊し、多数のあぶれ雄が集まって小競り合いをしながらも、多くの雄が交尾できるような状況が見られました。このような状況下では、体の小さな雄も交尾の機会を得ることが可能になります。
雌の集団は平均すると2、3頭ですが、多い時には10頭を超えることもあります。この雌集団を縄張りに持つ雄は、1日に5頭程度の雌と交尾することが可能です。ただし、雌は雄の縄張りに縛られるわけではなく、自由に別の植物へ移動することもあります。一方で、一度集団で場所を決めると、通常1週間程度はその場に留まります。雄は、縄張りとしていた場所に雌がいなくなると、その日のうちに縄張りを放棄します。つまり、雄は雌がいる場所に縄張りを作り、そこにいる雌と交尾する権利を一時的に独占するものの、雌自体を占有するわけではありません。雌は自由に縄張りを出入りできる点で、哺乳類に見られるようなハレム制とは大きく異なります。
雌がなぜ集団を作るのか、その明確な理由はまだ分かっていません。しかし、研究者の藤崎憲治氏は、雌の集団が大きいほどより体の大きな雄が縄張りを作る傾向があることから、雌は集団を作ることで雄同士を争わせ、より強い雄と交尾する機会を得ようとしている可能性があり、これは性淘汰の一種と見なせるのではないかという見方を示しています。
なお、ホオズキカメムシの交尾時間は平均して約45分と、他の多くのカメムシ類と比較して非常に短いことが分かっています。これは、縄張りにいつ侵入者が現れるか分からない状況において、すぐに交尾を中断して侵入者を追い出せるように適応した結果ではないかと考えられています。
どんなカメムシ？
一見すると地味な褐色をしたカメムシですが、オオヘリカメムシなどに通じる、どこか厳つい印象を与える体つきをしています。特に、前胸部の両肩が張り出し、雄の後ろ脚が太く発達しているのが特徴的です。体長はおよそ11ミリメートルから12ミリメートル。
身体全体は黒褐色で、短い毛が密に生えています。頭は小さく、長い触角は4つの節から成り、2節目が最も長く、先端の4節目は棍棒状で一番短くなっています。前胸の背面は前方へ向かって傾き、その前縁には細かい鋸の歯のような突起が並びます。また、背中の真ん中にはやや色の薄い縦の筋が見られます。小さめの三角形をした小楯板を持ち、翅の先端は腹部の端に達し、膜状の部分は暗い褐色で光沢があります。体の腹面や脚は背面よりも色が薄く、少し赤みを帯びています。脚の腿節（太ももの部分）は太く、特に後ろ脚は大きく膨らんでいます。脛節（すねの部分）の根元近くには淡い色の斑紋があります。腹部の背面は鮮やかな赤褐色をしています。
名前の由来
ホオズキカメムシという和名は、当然ながらホオズキに多く見られるカメムシであることに由来します。しかし、このホオズキという植物の名前そのものが、実はこのカメムシに由来するという興味深い説が示されています。この説によれば、古い時代にはカメムシを「ホウ」と呼んでおり、「ホウ」が付く植物だからホオズキとなったというものです。江戸時代の学者、貝原益軒が宝永5年（1709年）に著した『大和本草』には、「ホヽツキト云ハホヽト云臭虫コノンテ其葉ニツキテ食スル故ナリ（ホオヅキという名は、ホウという名の臭い虫が好んでその葉に付いて食べるからだ）」と記されており、これがホオズキカメムシを指していると考えられています。つまり、ホオズキカメムシの名前は「このカメムシが好んで集まる植物に付くカメムシ」という、少し回りくどい、循環した意味合いを持っていることになります。
生息地と暮らし
日本では本州、四国、九州、そして琉球列島に広く分布し、日本以外では台湾、中国、朝鮮半島にも生息しています。
一年を通して、成虫は年に1回または2回発生すると考えられています。成虫は4月下旬から5月頃に食草の上に姿を現し、産卵します。卵は長径約1.4ミリメートル、蛤のような形をしており、金色の光沢を放ちます。10個から30個ほどの卵を、葉の裏に少し間隔を空けて産み付けます。孵化したばかりの若い幼虫は白い粉をまとったような姿をしていますが、成長した幼虫は成虫に似てきます。幼虫が多く見られるのは6月から7月ですが、9月頃まで観察できます。新しい成虫は8月下旬から現れ始めます。
農業への影響
ホオズキカメムシは、ナス科のナス、トマト、トウガラシ、ホオズキや、ヒルガオ科のアサガオ、サツマイモなど、多様な作物に被害を与えます。幼虫は主に葉や茎から、成虫は茎から植物の汁を吸います。大発生すると、吸汁された茎葉の成長が止まってしまいます。被害が深刻になるのは、通常6月から9月にかけてです。タバコにも飛来することがあり、根元の茎から吸汁したり、葉に産卵したりすることもありますが、孵化した幼虫は成長できず、タバコに対する実質的な被害は少ないとされています。
特異な社会行動
このカメムシは、生活史の様々な段階で集団を形成する習性を持っています。一方で、雄の成虫は縄張りを持つという対照的な性質も見られます。
幼虫の奇妙な集まり方
特に若い幼虫、中でも1齢幼虫は強い集合性を示し、全ての個体が頭を集団の外側に向けて円形に並ぶという、非常に特徴的な集まり方をします。この集団形成は、足場となる場所の構造に関わらず、平らな紙の上でも見られます。ばらばらにされた幼虫が動き回り、たまたま2匹が触れ合うと動きを止めて集まり始めます。そこに他の個体が触れると次々と加わり、集団は大きくなります。この時、触れ合った幼虫は触角を動かして相手を確認するような仕草をした後、向きを変えてお尻側から集団に接触していきます。このようにして、全個体の頭が外側を向いた円形の集団が作られるのです。この行動は、個体間の接触によって引き起こされると考えられており、その感知には触角が重要な役割を果たしています。触角を切除すると、集合行動は起こらなくなります。
単独で飼育した幼虫と集団で飼育した幼虫を比較すると、興味深い違いが見られます。1齢幼虫は卵の栄養で成長するため、この段階での成長や生存率に集団か単独かの差はほとんどありません。しかし、摂食を開始する2齢から3齢にかけては、単独飼育の方が成長が遅れ、発育にばらつきが出る傾向があります。ところが、4齢から5齢になると、逆に単独飼育の方が成長が速まるという結果も出ています。自然環境下での観察では、1齢幼虫はほとんど動かず集団を作りますが、2齢以降は動きながら集団を作ったりばらけたりを繰り返し、やがて特定の植物に集まって大きな集団を作ります。3齢から4齢はこの集団で過ごし、終齢である5齢になると再び活発に移動を始め、それまで利用していなかった植物にも分散していきます。これは、集団で高密度で過ごすことの利点を享受しつつ、その密度が高まることによる悪影響が現れ始めると、集団の形態を変えたり分散したりしてそれを避けるという、巧妙な行動調節を行っていることを示唆しています。また、移動しない1齢幼虫の集団は、同一の卵塊から生まれた血縁集団です。もし天敵に襲われた際に、一部の個体が犠牲になって警報フェロモンを放出し、他の血縁個体を逃がすのであれば、これは血縁選択という観点から、一見利他的に見える行動も説明がつくと考えられます。
このような幼虫の集団は、天敵が現れると劇的に変化します。例えば、ホオズキカメムシ1齢幼虫の集団に捕食者であるナミテントウを近づけると、テントウが1匹の幼虫に触れた瞬間、他の全ての幼虫が一斉に動き出して逃げ出したり、そのまま落下したりします。頭を外側に向けた円形の集団が、まるで花火が散るように瞬時に解消する様子が見られます。逃げ出した幼虫たちは、約1時間後には同じ葉に戻って再び集団を形成します。テントウムシは獲物を捕まえると、その周辺を重点的に探索する習性がありますが、幼虫のこの素早い散開行動は、天敵の探索範囲から逃れるのに有効であると考えられます。集団が散開するきっかけとなる刺激は、幼虫が放つ悪臭であり、これが仲間に危険を知らせる警報フェロモンとして機能していると考えられています。
成虫の縄張り行動とハレム
成虫においても雌は集団を形成する傾向がありますが、雄は互いにある程度の距離を保って生活しています。これは雄が縄張りを形成するためです。雄は雌の集団を含む範囲を自分の縄張りとし、そこにいる雌との交尾権を独占しようとします。縄張りの雄がいなくなると、別の雄が入り込み、その雌たちと交尾します。他の雄が縄張りに侵入してくると、縄張り雄は素早く突進し、多くの場合、それだけで侵入雄は退散します。それでも侵入雄が引き下がらない場合は、両者は向き合い、発達した後ろ脚を使って相手の胴体を挟みつけようとします。相手を締め付けようとするこの闘争は、通常は数分で終わりますが、まれに1時間を超えることもあります。闘争中に両者とも地面に落ちてしまうこともありますが、その後の行動は大きく異なります。縄張り雄はすぐに体勢を立て直し、できるだけ速やかに縄張りに戻ろうとしますが、侵入雄はそれほど急がず、ゆっくりと元の場所や別の場所に移動します。
縄張りに失敗した雄（あぶれ雄）にとって、交尾の機会を得る主な手段は、他の雄から縄張りを奪うことです。縄張り雄と侵入雄の闘争では、一般的に縄張り雄が有利ですが、侵入してきたあぶれ雄の方が体が大きい場合は、縄張り雄の勝率は7割程度になると言われています。つまり、あぶれ雄は自分より小さな縄張り雄に積極的に挑めば、3回に1回程度は縄張りを獲得できることになります。この結果、体の小さな雄があぶれやすくなる傾向が見られます。縄張り雄の目を盗んでの交尾は非常にまれであり、もし見つかれば、縄張り雄はたとえ自分が交尾中でもそれを妨害します。
しかし、縄張りを維持するにはコストがかかります。侵入してくる他の雄が多い場合、縄張りを放棄する雄も出てきます。実験的に雄の密度を高めると、雌の数が多い、つまり他の雄の侵入が多い植物では、縄張りが崩壊し、多数のあぶれ雄が集まって小競り合いをしながらも、多くの雄が交尾できるような状況が見られました。このような状況下では、体の小さな雄も交尾の機会を得ることが可能になります。
雌の集団は平均すると2、3頭ですが、多い時には10頭を超えることもあります。この雌集団を縄張りに持つ雄は、1日に5頭程度の雌と交尾することが可能です。ただし、雌は雄の縄張りに縛られるわけではなく、自由に別の植物へ移動することもあります。一方で、一度集団で場所を決めると、通常1週間程度はその場に留まります。雄は、縄張りとしていた場所に雌がいなくなると、その日のうちに縄張りを放棄します。つまり、雄は雌がいる場所に縄張りを作り、そこにいる雌と交尾する権利を一時的に独占するものの、雌自体を占有するわけではありません。雌は自由に縄張りを出入りできる点で、哺乳類に見られるようなハレム制とは大きく異なります。
雌がなぜ集団を作るのか、その明確な理由はまだ分かっていません。しかし、研究者の藤崎憲治氏は、雌の集団が大きいほどより体の大きな雄が縄張りを作る傾向があることから、雌は集団を作ることで雄同士を争わせ、より強い雄と交尾する機会を得ようとしている可能性があり、これは性淘汰の一種と見なせるのではないかという見方を示しています。
なお、ホオズキカメムシの交尾時間は平均して約45分と、他の多くのカメムシ類と比較して非常に短いことが分かっています。これは、縄張りにいつ侵入者が現れるか分からない状況において、すぐに交尾を中断して侵入者を追い出せるように適応した結果ではないかと考えられています。
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