ムジナモ

ムジナモ（貉藻）とは

ムジナモ（Aldrovanda vesiculosa）は、モウセンゴケ科に属するユニークな水生食虫植物であり、1属1種のみで構成されています。その名の由来は、植物学者の牧野富太郎が、タヌキの尾に似た形状から「タヌキモ」と名付けようとしたものの、既に同名の植物が存在したため、タヌキの別名である「ムジナ」を採用したとされています。英名では「Waterwheel plant（水車の植物）」と呼ばれ、放射状に広がる捕虫葉の様子が水車を連想させます。

形態と生態

ムジナモは根を持たない浮遊性の水草で、茎を中心に捕虫葉が輪生します。この捕虫葉は二枚貝のような形をしており、内部には感覚毛が生えています。ミジンコなどの小型動物が触れると、わずか50分の1秒という驚異的な速さで葉を閉じ、獲物を捕獲します。捕獲後は、消化酵素を分泌して養分を吸収します。茎は5cmから30cmほどに成長し、夏には1日に1cm伸びることもあります。また、茎から脇芽を出し、分離することで増殖します。

冬期には、先端に冬芽を形成して水底で越冬し、春になると再び成長を開始します。夏には花茎を伸ばしますが、開花することはまれで、多くは閉鎖花のまま終わります。開花する際は、白または緑白色の小さな花が、昼間のわずかな時間に咲きます。種子は翌年の初夏に発芽します。

分布

ムジナモは、17世紀末にインドで初めて発見され、その後ヨーロッパやオーストラリアなど世界各地で確認されました。しかし、近代化に伴う水質汚染や開発によって生息地が減少し、絶滅した地域も多く存在します。かつては「ムジナモ最後の自生地」と言われた場所もありましたが、近年、ハンガリーやロシアなどで再発見されています。また、スイスなどでは人工的に自生地が復元されています。

日本においては、1890年に牧野富太郎が江戸川付近で発見しました。しかし、1960年代後半には野生個体群は消失したと考えられていました。ところが2022年、石川県の農業用ため池で自然に生き残っていた個体群が発見され、注目を集めています。

人間との関わり

ムジナモは、都市開発や水質汚染、森林伐採などによって生息数を減らしており、環境省のレッドリストでは絶滅危惧IA類に指定されています。日本国内では、かつて多くの自生地がありましたが、現在ではほとんどが消失しました。

栽培は難しく、一般的に園芸植物として利用されることは少ないですが、一部の愛好家によって栽培されています。入手は限られた園芸店や熱帯魚店に限られます。栽培には、日光、弱酸性の水質、貧栄養な環境が必要で、アオミドロの発生に注意が必要です。ミジンコを餌として与えると成長を促すことができます。

日本での発見とその後

日本におけるムジナモの発見は、牧野富太郎が江戸川のほとりで偶然見つけたことに始まります。この発見は、牧野富太郎の名を世界に広めるきっかけとなりました。その後、日本各地で発見が相次ぎましたが、開発や環境悪化により、その多くが失われました。宝蔵寺沼は最後の自生地として知られていましたが、水害や農薬の影響により絶滅しました。しかし、栽培されていた個体が残存し、現在では放流や増殖の試みが行われています。また、埼玉大学の研究グループによりクローン増殖も可能となり、実験材料としての供給も実現しています。さいたま水族館では、実際にムジナモを観察することができます。

栽培のポイント

ムジナモの栽培には、適切な環境を整えることが不可欠です。具体的には、以下の点に注意する必要があります。

日光: 十分な日光が必要です。
水質: 弱酸性の水質を保つ必要があります。稲藁や無調整ピートを利用して水質を調整するのが一般的です。
栄養: 貧栄養な環境を好みます。肥料は不要ですが、ミジンコを餌として与えると良いでしょう。
アオミドロ対策: アオミドロは天敵です。こまめに取り除くか、ヌマエビやタニシなどの生物を導入して対策しましょう。

ムジナモは、その特異な生態から多くの人々を魅了する一方で、絶滅の危機に瀕している植物でもあります。その保護と持続可能な環境づくりが、今後の課題となるでしょう。

出典

貉藻栽培録
『ムジナモ発見物語り』：新字新仮名 - 青空文庫』（牧野富太郎著）

関連項目

外部リンク

貉藻栽培録
『ムジナモ発見物語り』：新字新仮名 - 青空文庫

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