ユズリハ

ユズリハ（楪・交譲木・譲葉・杠）

ユズリハ（学名: Daphniphyllum macropodum）は、ユズリハ科ユズリハ属に属する常緑高木です。春に新しい葉が成長すると、古い葉が役目を終えるように落ちる特徴的な生態から、その名が付けられました。この様子は、あたかも親が子に場所を譲るように見えることから、縁起の良い木として古くから親しまれています。

名称の由来

和名「ユズリハ」は、新旧の葉が交代する様子に由来します。古名では「ユズルハ（弓弦葉）」と呼ばれ、葉の中央を走る主脈が弓の弦のように見えることがその理由です。この「弓弦葉」が転じて、地方によっては「ツルノハ」と呼ばれることもあります。中国では「薄葉虎皮楠」という名で知られています。

分布と生育環境

ユズリハは、日本の福島県以南の本州、四国、九州、沖縄、そして朝鮮半島南部、中国の一部地域に分布しています。暖地の山地や広葉樹林を好んで自生しており、植栽されることも多く、東北地方南部から沖縄にかけて栽培可能です。

形態と生態

ユズリハは、高さ4～10mに成長する中高木です。樹皮は灰褐色から茶褐色で、縦に筋が入ります。若枝は赤みを帯びています。特徴的なのは、常緑樹でありながら、春に古い葉が新しい葉と入れ替わる点です。古い葉はまだ緑色を保ちながら、新葉に場所を譲るように落葉します。葉は互生し、枝先に集まって垂れ下がり、光沢のある長楕円形から倒披針形で、葉柄は赤紫色を帯びています。

花期は春から初夏で、黄緑色の小さな花を多数咲かせます。雌雄異株であり、雄花と雌花は別の木に咲きます。果実は6月から12月にかけて実り、熟すと黒褐色になります。冬芽は赤みを帯びた芽鱗に包まれています。

ユズリハアルカロイド

ユズリハには、ダフニフィリン、ダフニマクリン、ユズリミン、ダフェニリンなどのアルカロイドが含まれています。これらの成分は、家畜が誤って摂取すると中毒を引き起こす可能性があります。また、これらの複雑な構造を持つアルカロイドは、化学合成の研究対象としても注目されています。

人間との関わり

ユズリハは、その生態から「親が子を育て、家が代々続く」という連想を呼び起こし、縁起の良い木として重宝されてきました。正月の鏡餅飾りや庭木として利用されるほか、家紋にも用いられています。また、防火樹としての役割も担っています。

栽培

ユズリハは日陰や半日陰を好み、乾燥にも強い性質を持っています。生育速度は遅く、若木の間は剪定の必要はほとんどありません。植え付けは6月中旬から7月中旬、剪定は6月下旬から11月下旬に行います。刈り込みには弱いため、軽く枝を整える程度にとどめることが推奨されます。大きく育った木は、混み合った枝を間引くように剪定します。

観賞用としても人気があり、白い斑入りの「白覆輪ユズリハ」など、様々な園芸品種が存在します。

文化

ユズリハは、その縁起の良さから正月飾りに用いられます。これは「歳を譲る」という意味も持ちます。また、ユズリハは年神（正月様）の乗り物であるという伝承も各地に存在します。これは、ユズリハの古い葉が新葉に譲るように落ちる様子が、祖霊が代を譲って新しい命に繋いでいくイメージと重なったためと考えられています。門松にユズリハを結ぶ風習は、祖霊が帰る際の目印として用いられたことに由来します。常緑樹であることや、葉柄の赤い色が呪力を持つと考えられたことも、ユズリハが正月と結びついている理由です。

地方名「ツルノハ」は「鶴の葉」に転じ、鶴が長寿の象徴であることから、ユズリハもめでたいものとされています。花言葉は「若返り」です。

ユズリハ属

ユズリハ属（Daphniphyllum）は、ユズリハ科で唯一の属であり、東アジアから東南アジアにかけて約35種が分布しています。主な種としては、以下のものがあります。

Daphniphyllum beddomei
Daphniphyllum glaucescens
Daphniphyllum himalense
ユズリハ (Daphniphyllum macropodum)：基亜種。亜種としてエゾユズリハ、品種としてアオジクユズリハ、フイリユズリハなどが知られています。
Daphniphyllum pentandrum
ヒメユズリハ (Daphniphyllum teijsmannii)：別名オヤコグサ。変種としてスルガヒメユズリハ、シマユズリハがあります。

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