上には上がある

トムとジェリー生誕の物語：アニメーション短編映画『上には上がある』

1940年2月10日、アメリカで公開されたアニメーション短編映画『上には上がある』（原題：Puss Gets the Boot）は、現在では世界的に有名なトムとジェリーシリーズの事実上の第一作として知られています。メトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）制作による本作は、アカデミー短編アニメ賞にもノミネートされた、歴史に残る作品と言えるでしょう。

猫とネズミの息詰まる攻防

物語の舞台は、広々とした屋敷。ペットとして飼われている猫のトム（当時はジャスパー）と、屋敷に住み着いているネズミのジェリー（当時はジンクス）の、いたずらと追いかけっこが繰り広げられます。

最初はトムがジェリーを遊び道具として弄んでいますが、ジェリーの一撃で状況は一変。トムは、飼い主であるお手伝いさんに家中の品物を壊したことを咎められ、「次に何か壊したら追い出す」と厳しく警告されます。

この警告を気にしながらも、ジェリーはトムを執拗に挑発。トムは必死に家財道具を守ろうとしますが、ジェリーの策略にはまり、次々と食器を割ってしまいます。とうとうお手伝いさんの怒りを買ってしまい、トムは家から追い出されてしまうのです。一方、ジェリーはトムのいたずらにうまく対応し、最終的に勝利を掴みます。

誕生秘話と制作秘話

本作は、当時経営難に苦しんでいたMGMで、ジョセフ・バーベラとウィリアム・ハンナという二人のアニメーターが、オリジナル作品制作のアイデアとしてネコとネズミを主人公にした企画を提案したことから生まれました。当初は「陳腐なアイデア」と酷評されたものの、二人は持ち前の才能と熱意で、ルドルフ・アイジングのプロデュースの下、パイロット版を制作。これがMGMの重役たちに認められ、正式な制作へと進みました。

しかし、公開に際しては、宣伝もほとんど行われず、ハンナとバーベラはクレジットされませんでした。アイジングのみがプロデューサーとしてクレジットされたことは、二人の大きな失望となりました。にもかかわらず、本作は人気を博し、アカデミー賞にもノミネートされたのです。この成功が、後に「トムとジェリー」という独立したシリーズの制作へとつながっていきました。アイジングは、その後、制作から外されることとなります。

日本での展開とその後

日本では1964年にTBS系でシリーズが放映開始された際に初めて紹介されました。以降、再放送やソフト化などを通して、長年にわたって愛され続けています。日本語吹き替え版では、シリーズ全体を通して名前が「トム」と「ジェリー」に統一されています。

『上には上がある』は、トムとジェリーの物語の始まりであり、二人のキャラクターの原型が確立された重要な作品です。シンプルながらも巧みな演出、そして魅力的なキャラクターたちが織りなす、コミカルでスリリングな展開は、世代を超えて人々を魅了し続けています。作品に込められた制作陣の苦労と情熱、そしてトムとジェリーの誕生物語は、この作品をさらに深く魅力的なものへと昇華させています。

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