上川大雪酒造

上川大雪酒造株式会社（かみかわたいせつしゅぞう）は、北海道上川郡上川町旭町に本社を構える日本酒の醸造元です。特徴的なのは、本社機能を持つ上川町の蔵に加え、帯広市と函館市にもそれぞれ醸造所を設け、地域特性を反映させた独自の銘柄を展開している点にあります。

その起源は、1955年12月に三重県四日市市で創業した「ナカムラ」という酒蔵に遡ります。この酒蔵は後に経営難に陥り、休眠状態となっていました。再生のきっかけは、三國プランニング副社長（当時）の塚原敏夫氏らによる働きかけでした。彼らは、休眠状態の酒造免許を活用し、北海道へ酒蔵を移転して新たな事業を興す計画を推進します。移転先として選ばれたのは、三國プランニングがレストラン兼ホテルを経営していた北海道上川町でした。

2016年8月には塚原氏が新会社の社長に就任。同年11月には、社名を「上川大雪酒造株式会社」に変更するとともに、本社および酒蔵の移転が実行されました。翌12月、国税当局に対して酒類製造場の移転許可申請書を提出しましたが、国税庁の管轄区域をまたいでの移転許可申請は当時前例がなく、その手続きは困難を伴いました。この間、事業資金の調達にはクラウドファンディングが活用され、多くの支援を得たことでも注目を集めました。

こうした経緯を経て、2017年5月、酒造免許の移転が正式に許可され、上川大雪酒造株式会社としての上川での酒造りが開始されました。最初の蔵は「緑丘蔵（りょっきゅうぐら）」と名付けられました。杜氏には、北海道新十津川町の金滴酒造で腕を振るっていた川端慎治氏が招聘されました。興味深いことに、塚原社長や出資者である日立トリプルウィンの親会社・日立キャピタル関係者の多くが小樽市にゆかりのある人物（小樽商科大学や小樽潮陵高校出身）であり、緑丘蔵という名称は小樽商科大学の異称に由来しています。2019年1月には、この緑丘蔵に隣接する形で直営店もオープンし、できたての酒を直接購入できるようになりました。

上川での事業が軌道に乗る一方、道内他地域への展開も進められました。2018年7月には、帯広畜産大学と連携し、同大学構内に新たな醸造所「観光蔵」を設けることで合意。新会社「十勝緑丘」を設立し、この前例のない取り組みに着手しました。大学構内初の酒蔵として建設された施設は「碧雲蔵（へきうんぐら）」と名付けられ、2020年5月に完成。同年11月には、碧雲蔵で仕込まれた最初の新酒「純米 十勝 初しぼり」が十勝地方限定で発売されました。

さらに、道南への展開も計画されます。2020年8月には、函館市に新会社「函館五稜乃蔵」を開業する構想が発表されました。2021年12月には「五稜乃蔵」での日本酒の仕込みがスタートし、翌2022年1月には、五稜乃蔵初の製品である生純米酒「五稜」が函館市内で限定発売されました。

このように、上川大雪酒造は、休眠状態だった酒蔵を北海道へ移転させて再生しただけでなく、道内各地に新たな醸造拠点を設け、それぞれの地域の水や米、気候風土を活かした酒造りを行うことで、地域経済の活性化にも貢献しています。これらの活動、特に酒蔵を核とした地方創生への顕著な取り組みが評価され、2024年には第78回北海道新聞文化賞を受賞しました。北海道の風土に根差した酒造りと、地域と共に発展を目指すその姿勢は、広く注目を集めています。

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