世界線

世界線

世界線（せかいせん、英: world line, 独: Weltlinie）とは、物理学、特に相対性理論において、時間と空間が一体となった概念である「時空」上における、ある一点の粒子や物体、あるいは光などがたどる連続的な足跡を指す言葉です。これは、まるで地図上で旅行の経路を示す線のように、時間と空間の四次元的な広がりの中で、その対象がいつ、どこに存在したかという事象の連なりを表現するものです。

もし対象が点ではなく、一次元的な広がりを持つ物体（例えばひも状のもの）であれば、その時空上の軌跡は「世界面（world sheet）」と呼ばれます。さらに二次元的な広がりを持つ物体（例えば膜状のもの）の軌跡は「世界体積（world volume）」と呼ばれ、世界線はこれらの概念を点に対して適用した特殊なケースと言えます。

特殊相対性理論における世界線

アインシュタインの特殊相対性理論では、時空は平坦である（重力の影響がない）と仮定されます。この平坦な時空は、数学的にはミンコフスキー空間として記述されます。この理論において、物体や光の運動は世界線として表されます。

特に、光の速度で進む光や、何の力も受けずにまっすぐに（慣性運動で）進む物体の世界線は、測地線と呼ばれます。これは時空上で「最も短い」あるいは「最もまっすぐな」線と見なすことができます。

世界線は、その時空における傾きによって、以下の三つの種類に分類されます。

時間的 (time-like) 世界線: 光速よりも遅い速度で運動する通常の物体がたどる軌跡です。この世界線上の二つの異なる点は、原因と結果の関係（因果律）で結ばれる可能性があります。
空間的 (space-like) 世界線: 同時刻における空間上の異なる場所を結ぶような軌跡です。この世界線上の二点間は、光信号をもってしても互いに影響を及ぼすことはできません。すなわち、因果関係は成り立ちません。
* 光的 (null / light-like) 世界線: 光速で運動する光がたどる軌跡です。これも特定の測地線であり、因果関係の境界を示します。

これらの分類は、時空の構造を示す「光円錐」という概念と密接に関連しています。平坦な時空では、光円錐はどの場所でも同じ形状をしています。

一般相対性理論における世界線

アインシュタインの一般相対性理論では、重力があるために時空は曲がっていると考えます。この点が特殊相対性理論の場合と大きく異なります。

曲がった時空においても、物体や光の運動は世界線として描かれます。時空の曲がり具合、すなわち時空の幾何学的な構造（物理学ではこれを「計量」で記述します）や、その中の物体や光がどのように運動するかは、時空上に存在する質量やエネルギーの分布によって決まり、アインシュタインの場の方程式という物理法則によって記述されます。

曲がった時空でも、世界線はやはり時間的、空間的、光的に分類されます。しかし、時空が曲がっているため、場所によって光円錐の形状や向きが見かけ上変化することがあります。これは、座標の取り方による見え方の違いを含みます。

一般相対性理論では、重力の影響下にある物体や光は、その場所の時空が定める測地線に沿って運動します。特殊相対性理論での定義とは異なり、曲がった時空における測地線は必ずしも「まっすぐ」に見えるわけではありませんが、特定の数学的な意味で「最も効率的な」経路であると解釈できます。例えば、地球の周りを回る人工衛星は、地球が作り出す時空の曲がりの中で、その場所の測地線に沿って運動していると見なすことができます。

世界線という概念は、物理学において、時間と空間における出来事の関係性や、対象の運動状態を視覚的かつ数学的に理解するための非常に強力なツールです。関連する概念には、ミンコフスキー空間、測地線、運動 (物理学)、理論物理学で素粒子の相互作用を記述する際に使われるファインマン・ダイアグラム（これは世界線の概念を応用しています）、さらには人間の活動の時間と空間におけるパターンを分析する時間地理学などがあります。

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