中曽根雅夫

1935年7月17日に長野県で生まれた中曽根雅夫は、日本の俳優・声優として活動しました。地元の上田千曲高等学校を卒業後、東京アナウンスアカデミーで学び、キャリアをスタートさせます。

当初は東京放送専属劇団を皮切りに、青年工房、土の会、河の会といった劇団に所属し、舞台やラジオドラマなどで経験を積みました。1958年にはTBS放送劇団に第6期生として入団。この時の同期には、後に声優として名を馳せる田中信夫や俳優の天田俊明らがいました。

中曽根氏の名が最も広く知られているのは、1966年に放送された特撮テレビ番組『ウルトラマン』における、主人公ウルトラマンの声の担当者としてです。彼は、宇宙人であるウルトラマンの象徴的な「シュワッチ！」という掛け声や、戦闘中の唸り声、効果音的な発声などを担当しました。しかし、残念ながら当時の番組タイトルバックには彼の名前がクレジットされることは少なく、一般には「シュワッチ！」という掛け声ほど、その声を担当した中曽根氏の名前が知られることはありませんでした。

ウルトラマンの音声については、当初は人間の言葉を話す際の「話し声」も中曽根氏が担当する予定でした。しかし、アフレコ収録が既に進行していた関係で、第1話でウルトラマンが言葉を発するシーンは、たまたま現場にいた編集技師の近藤久氏が急遽演じることになりました。それでも、第1話以降はウルトラマンの発声を一任されることになり、中曽根氏はウルトラマン独特の響きのある声を完成させるために、様々な試みを行ったといいます。ピアノに向かって発声したり、さらには自宅の風呂場に顔を突っ込んで響き方を試すなど、役への深い探求心を持って臨んでいたことがうかがえます。そして、第33話「禁じられた言葉」では、メフィラス星人との重要な会話シーンにおいて、ウルトラマンの「話し声」を初めて、そしておそらく唯一本格的に演じる機会を得ました。

『ウルトラマン』への参加以降も、中曽根氏は声優として活動を続け、東映制作の多くのアニメ作品に出演しました。具体的には、『エイトマン』、『鉄腕アトム（第1作）』、『巨人の星』、『タイガーマスク』など、当時の人気作品で様々なキャラクターやナレーションを務めています。

しかし、俳優としては大きな成功を収めることは叶いませんでした。所属していたTBS劇団が解散した後、彼は定職に就けず、様々な仕事を転々とすることになります。生活は困窮し、家族とも離れてしまった末、1993年9月2日、不遇な状況の中で孤独に亡くなりました。享年58歳でした。

同期であり友人でもあった田中信夫氏は、中曽根氏の最期の状況について、警察からの連絡を受けて自身がメモした日付として「1993年9月2日、3時」と語っています。ただし、この日が正確な命日であるかは未確認とのことです。田中氏は、死因については風邪をこじらせたことによる衰弱死あるいは病死ではないかと推測しています。警察が田中氏に連絡したのは、中曽根氏の遺品の手帳に田中氏の名前が記されており、さらに住まいが近所だったためだと説明されたそうです。しかし、田中氏は、中曽根氏が自身の近所に住んでいたことすら知らなかったと述懐しています。

田中氏は、中曽根氏の人柄について、「見かけは少し威圧感があったものの、実際には優しすぎるほどの温かい人物だった」と振り返っています。中曽根氏は亡くなる1年ほど前にも田中氏と会っており、その際に「新しいウルトラマンの声は、俺の声なんだ」といった趣旨の話をしたり、「俳優として再び活躍したい」という強い意欲を打ち明けていたそうです。田中氏は当時の状況から俳優復帰の難しさを伝えたようですが、中曽根氏自身は複数のプロダクションに積極的に接触を図っていたとされています。ウルトラマンの声という偉大な功績を残しながらも、最後まで俳優としての再起を願っていた彼の晩年は、多くの人々に静かな哀惜の念を抱かせています。

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