中村和子

中村和子：アニメ史に輝く才能と魅力的な人生

1933年、満州で生まれた中村和子は、幼少期から絵画に深い関心を抱き、将来は美術の道を歩むことを決意します。終戦後、日本に引き揚げ、山口県立宇部高等学校を経て女子美術大学洋画科に進学。教員免許も取得するなど、将来への備えも怠りませんでした。

大学の在学中に観たフランスの長編アニメーション映画がきっかけとなり、アニメーターへの道を志すことに。卒業後は、東映動画（現・東映アニメーション）の設立メンバーとして入社します。大塚康生氏や紺野修司氏らと共に、日本のアニメーション黎明期を担った仲間の一人でした。

東映動画では、『白蛇伝』などの長編アニメーション映画制作に第二原画や動画として参加。しかし、制作に対する自身の考えと会社のスタイルの違いから退社を決意します。

その後、虫プロダクションへ移籍。1963年から放送開始された『鉄腕アトム』の制作に携わります。当時としては画期的な毎週放送という体制の中で、リミテッドアニメーションの手法が用いられましたが、中村氏はフルアニメーションにこだわっていた東映動画時代の同僚とは異なる意見を持っていました。彼女は「東映的なやり方はダメなのよ。ナウなアニメっていうのは動かさないことなのよ」と、フルアニメーションを主張する大塚氏らに反論したと伝えられています。

虫プロでは『W3』の作画監督を務めるなど活躍しますが、夫の穴見薫氏の虫プロ常務就任に伴い、一時アニメーション制作から離れます。しかし、1965年に『W3』の人材不足を解消するため、再びアニメーターとして復帰。夫の急逝という悲劇に見舞われながらも、『リボンの騎士』の作画監督を務めるなど、そのキャリアを継続しました。

虫プロ退社後は、フリーランスとして東映動画やサンリオフィルムなど様々な制作会社に参加。『100万年地球の旅 バンダーブック』では制作に携わり、『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』ではアニメーションディレクターとして活躍するなど、その幅広い才能を発揮しました。

長年にわたるアニメーション制作への貢献は高く評価され、数々の作品で重要な役割を果たしました。手塚治虫氏とは深い関わりがあり、『三つ目がとおる』のヒロイン「ワトさん」のモデルにもなったと言われています。

1989年、手塚治虫氏の死去を機に事実上引退。しかし、その才能と功績は、日本のアニメーションの歴史に深く刻まれています。2020年にはTAAF2020アニメ功労部門で顕彰され、その功績は後世に語り継がれることでしょう。

中村和子の人物像

中村和子は、「ワコさん」という愛称で親しまれていました。その美貌は多くの関係者から称賛され、大塚氏からは「美人でオチャメ」、坂本雄作氏からは「東映動画のナンバーワン美人アニメーター」と評されています。

仕事ぶりは、真剣そのものでした。森康二氏は「魔女の原画を担当しているとき、全く生き生きとしていて、あの人は魔女ではなかろうかと思いました」と語っており、石津嵐氏も「いつも毅然たる態度で仕事に没頭」と評しています。

才能と美貌、そして揺るぎない仕事への情熱。中村和子は、日本のアニメーションの歴史に輝く、唯一無二の存在でした。

主な参加作品

テレビアニメ

『鉄腕アトム』（原画）
『W3（ワンダースリー）』（作画監督）
『リボンの騎士』（作画監督）
『アンデルセン物語』（演出）
『ふしぎなメルモ』（原画）
『まんが日本昔ばなし』（美術）
その他多数

劇場アニメ

『白蛇伝』（動画）
『少年猿飛佐助』（動画）
『西遊記』（動画）
『ある街角の物語』（原画）
『千夜一夜物語』（原画）
『やさしいライオン』（原画）
『クレオパトラ』（原画）
『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』（アニメーションディレクター）
その他多数

参考文献

読売新聞記事（2019年12月15日）
「中村和子インタビュー」（まんだらけZENBU37号）
小林準治「追悼　手塚美女を描いた人　中村和子さん」（月刊「広場」2019年11月号）
宮崎克、野上武志『TVアニメ創作秘話～手塚治虫とアニメを作った若者たち～』（秋田書店）
* その他多数

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