中田宏樹

中田宏樹九段は、昭和39年（1964年）10月20日、東京都武蔵野市に生まれ、令和5年（2023年）2月7日、58歳で亡くなった将棋棋士です。桜井昇九段門下で、棋士番号は173番。

1985年秋、21歳でプロデビューを果たしました。プロ入り初年度となる1986年度には、羽生善治氏と並んで全棋士中1位タイとなる驚異的な勝率0.741を記録しました。その後も活躍は続き、1989年度のオールスター勝ち抜き戦では8連勝を達成するなど、数々の実績を残しています。

1990年代には、1991年度の王位戦で谷川浩司王位に挑戦者となる快挙を成し遂げました。挑戦者決定戦では破竹の17連勝を記録し、大きな注目を集めました。しかし、七番勝負では2勝2敗の後、4連敗を喫し、王位獲得とはなりませんでした。この年の将棋大賞では新人賞と連勝賞を同時受賞するなど、その実力は高く評価されました。また、1993年度の全日本プロ将棋トーナメントでは決勝五番勝負に進出するも、惜しくも準優勝に終わりました。竜王戦では、第7期（1994年度）4組で優勝、第8期（1995年度）3組で3位となり、2期連続の昇級を果たして2組に上がりました。さらに、第9期（2001年度）銀河戦では決勝トーナメントに進出し、藤井猛竜王（当時）を破るなど活躍を見せました。

2000年代に入ると、第15期（2002年度）竜王戦では3組2位となり本戦に出場。森下卓八段、森内俊之名人（当時）を破り、挑戦者決定三番勝負に進出する活躍を見せました。しかし、9年ぶりの対戦となった阿部隆八段との対戦では1勝2敗と惜しくも敗れ、竜王挑戦はなりませんでした。第22期（2009年度）竜王戦では4組決勝まで進出し、3組復帰の可能性もあったものの、田中寅彦八段に敗れました。順位戦ではなかなか昇級できず、C級2組からC級1組への昇級に9年、C級1組からB級2組への昇級に10年を要するなど、苦戦を強いられました。そのため、プロ入り後の昇段はすべて勝数規定によるものでした。八段昇段は通算560勝目を達成した時で、プロ入り後約20年間、平均年間28勝という驚異的なペースで勝利を重ねてきました。この年間28勝という数字は、年度ランキング10位前後に相当するものです。

2008年8月8日には、公式戦通算600勝を達成し、将棋栄誉賞を受賞しました。A級、B級1組を経験していない棋士による600勝は、史上初となる快挙でした。

2010年代に入ると、2010年3月5日、45歳にして、第68期B級2組順位戦で8勝2敗の成績でB級1組への昇級を果たしました。順位戦初参加から24年という歳月を経ての昇級でした。この時点での通算成績は1009対局632勝377敗（勝率0.6264）、順位戦での通算成績は240対局155勝85敗（勝率0.6458）でした。2019年には竜王戦4組で藤井聡太七段と対戦し、逆転負けを喫したものの、藤井七段を投了寸前まで追い詰める健闘を見せました。

2022年10月以降、体調不良により公式戦を休場することが続き、2023年2月1日には病気療養のため3月31日までの休場届を提出しました。そして、2月7日、病気のため永眠しました（日本将棋連盟による公表は2月9日）。58歳没。病名や死因は公表されていません。通算勝数は770勝で、将棋栄誉敢闘賞（通算800勝）まであと30勝、勝数規定による九段昇段まであと40勝というところで生涯を終えました。しかし、2月10日、九段位が追贈されました。

中田九段の棋風は、生粋の居飛車党で、矢倉を得意としていました。後手番では、相手の指し方によって角換わり、相掛かり、横歩取り8五飛など、幅広い戦法を駆使していました。対振り飛車戦法には急戦や居飛車穴熊など、柔軟な対応が特徴でした。

人物面では、日本将棋連盟の軟式野球チーム「キングス」の監督を務めた経験もあります。クールな外見とは裏腹に、盤上では悪魔的な強さを見せることから「デビル中田」の愛称で親しまれていました。朝日新聞記者の北野新太氏によるインタビュー記事では、晩年まで携帯電話やメールアドレスを持たず、パソコンもスマートフォンも使わず、将棋会館で棋譜のコピーを取り、盤を使って研究していたことが明かされています。そのインタビュー記事は、中田九段の死去後、追悼記事として公開されました。

中田宏樹九段の輝かしい功績は、将棋界の歴史に長く刻まれることでしょう。

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