九谷焼

九谷焼：彩り豊かな磁器の世界

九谷焼は、石川県南部（金沢市、小松市、加賀市、能美市）で制作される色絵磁器です。鮮やかな五彩手、いわゆる「九谷五彩」と呼ばれる色鮮やかな上絵付けが最大の特徴であり、古くから人々を魅了してきました。本稿では、九谷焼の歴史、特徴、著名な作家、関連施設などについて詳しく解説します。

古九谷：謎に包まれた起源

江戸時代、加賀藩領内での良質な陶石発見を契機に、明暦初期（1655年頃）、藩の殖産政策として九谷焼の生産が始まったとされています。有田から招かれた陶工の技術指導の下、独特の技法が確立されました。しかし、約半世紀後の元禄期には突如廃窯となり、その理由は未だ不明な点が多く残されています。この時代に焼かれた作品は「古九谷」と呼ばれ、独特の風格と高い芸術性から、現在でも高く評価されています。古九谷の窯跡は加賀市山中温泉九谷町に2カ所残されていますが、近年では有田での生産を示唆する研究成果も発表されており、議論が続いています。

再興九谷：新たな時代へ

廃窯から約1世紀後の文化4年（1807年）、加賀藩は京都から青木木米を招き、金沢に春日山窯を開設。これを皮切りに、加賀地方各地に多くの窯が築かれ、九谷焼は盛況を取り戻しました。この頃の作品を「再興九谷」と呼びます。この時期には能美郡で新たな陶石鉱脈が発見され、現在の主要な採石場となっています。加賀藩は、九谷焼の生産振興のため、他国からの陶磁器輸入を禁止する政策を採るほど、九谷焼は藩経済に重要な役割を果たしていました。春日山窯、若杉窯、小野窯など多くの窯元が生まれ、それぞれの窯元が独自の作風を確立していきました。中でも、春日山窯は京風の、若杉窯は有田風の、吉田屋窯は古九谷風の作風を得意としていました。

九谷焼中興の祖：九谷庄三

九谷焼中興の祖と呼ばれる九谷庄三は、優れた陶工として知られています。小野窯で修業した後、各地で指導にあたると同時に、能登で「能登呉須」と呼ばれる顔料を発見するなど、九谷焼の発展に大きく貢献しました。西洋からの顔料も積極的に取り入れ、彩色金欄手技法を確立。彼の作品は「庄三風」と呼ばれ、明治時代に欧米へ輸出され高い評価を得ました。和洋折衷の作風は、現代の作家にも影響を与え続けています。

新九谷：世界へ羽ばたく

明治時代に入ると、九谷焼は主要な輸出品となり、ジャポニスムが流行した欧米で人気を博しました。ウィーン万国博覧会などへの出品を通して、九谷焼は国際的な知名度を獲得しました。この時代には型押しの技術が導入され、置物の量産化も進みました。また、失業士族の授産施設として設立された金沢区方開拓所製陶部は、九谷焼の技術発展に貢献しました。

作風と著名な作家

九谷焼には、古九谷風、木米風、吉田屋風、飯田屋風など、様々な作風が存在します。古九谷風は赤、黄、青緑、群青、紫の五彩を用いた重厚な風格が特徴です。一方、吉田屋風は赤色を使わない青九谷として知られています。

著名な作家には、二代目浅蔵五十吉、吉田美統、三代目徳田八十吉、粟生屋源右衛門、青木栄五郎、竹内吟秋、浅井一毫、北出塔次郎、中村翠恒、伊藤公象、硲伊之助、福島武山、見附正康などがいます。これらの作家たちは、それぞれの個性豊かな作品で九谷焼の歴史を彩ってきました。

九谷焼関連施設

九谷焼の魅力を伝える施設として、石川県立伝統産業工芸館、石川県九谷焼美術館、加賀伝統工芸村ゆのくにの森などがあります。これらの施設では、九谷焼の歴史や技法、作品などを学ぶことができます。

まとめ

九谷焼は、400年以上の歴史を持つ伝統工芸であり、その鮮やかな色彩と精緻な技法は、多くの人々を魅了し続けています。古九谷の神秘から、再興期の隆盛、そして現代の国際的な活躍まで、九谷焼の歴史は日本の陶磁器史における重要な一章を刻んでいます。今後も、九谷焼の伝統を守りつつ、新たな魅力を生み出していくことが期待されます。

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