亀有公園前派出所

秋本治氏による人気漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の中心的な舞台として描かれているのが、この「亀有公園前派出所」です。作品の顔とも言えるこの場所は、主人公である巡査長・両津勘吉をはじめ、主要な登場人物たちが日々の勤務に励む場所として、連載当初から物語の核をなしています。現実世界には東京都葛飾区に亀有公園は存在しますが、公園の前に派出所が実在するわけではなく、あくまで作品世界の中に存在する架空の施設です。作中では、環七通り沿い、亀有公園の外縁に位置すると設定されています。

物語の展開に伴い、両津の活動範囲が広がり、擬宝珠家が営む「超神田寿司」など新たな舞台が登場してからは、派出所でのエピソードが相対的に少なくなる時期もありましたが（単行本118巻以降）、依然として作品の象徴的な場所であることに変わりはありません。

作中における派出所の描写

亀有公園前派出所は、警視庁新葛飾警察署の管轄下に置かれています。建物はそれほど大きくない平屋建てで、内部は事務室、休憩部屋、台所などに分かれており、警察官が交代制で24時間勤務できる構造になっています。事務室には二つのデスクが設置されており、主に両津と秋本・カトリーヌ・麗子が使用しています。休憩部屋にはテレビやパソコン、さらには麻雀やトランプなどで遊べる炬燵台などが備え付けられており、食事や仮眠、そして所員たちの憩いの場となっています。両津の私物であるゲーム機などが置かれていることも少なくありません。また、派出所の右隣には柵で囲まれた屋外スペースも存在します。

所員構成は、連載開始から一貫して大原大次郎巡査部長が班長を務めています。勤務する警察官の総人数は明確にされていませんが、一回の勤務につく人数はエピソードによって変動します。主要メンバーとして、大原班長のもと、両津勘吉巡査長、中川圭一巡査、秋本・カトリーヌ・麗子巡査、そして寺井洋一巡査から丸井ヤング館巡査、麻里愛巡査が常勤しています。この他に、新葛飾署の交通課や交通機動隊などに所属しながら、非常勤として勤務する擬宝珠纏、磯鷲早矢、乙姫菜々といった準メンバーもいます。さらに、一話限りや複数回登場する単発の所員も多数存在し、交通課からの配置が多い傾向にあります。ボルボ西郷、早乙女リカ、法条正義のようなキャラクターが臨時の人手として勤務についたり、本田速人や早乙女リカが休憩がてら遊びに来ることもよくあります。初期の主要メンバーだった戸塚金次や、岩田、水谷、南、松本、恵比寿海老茶、日暮熟睡男といった元メンバーも存在します。

派出所の建物は、両津の奇行や事件によって頻繁に破壊されてしまいますが、ほとんどの場合は次の話までには何事もなかったかのように修復されています。ただし、火災（第3巻）、爆発（第23巻）、ミサイル誤作動（第119巻）の際は修復に数週間かかり、その間はプレハブなどの仮建物が使用されました。中には、手抜き工事が原因で建物ごと盗まれてしまうというエピソードも描かれています（第7巻、第23巻）。

一時、派出所の隣にロボット警官が勤務する「ロボット派出所」が設置されたこともありましたが、これは作者の意図に反して読者からの評判が悪く、撤去されました。電話設備も時代に合わせて変化しており、初期の黒電話からプッシュホン、コードレスホンへと交換されています。

名称と実在の場所

現実の日本では、1994年7月より警察の施設名称が「派出所」から「交番」に変更されましたが、作品のタイトルおよび作中の施設名は一貫して「亀有公園前派出所」のままです。作中では、一度「亀有公園前交番」と表記された際、両津が激しく反発して「派出所」と書き直すというユーモラスな場面が描かれています。現実には、亀有駅北口にある亀有警察署亀有駅北口交番が、作品に登場する派出所のモデルの一つとして言及されることがあり、亀有警察署のウェブサイトでもその類似性が触れられています。ただし、『こち亀』の公式サイトでは、あくまで観光名所としての紹介にとどまり、モデルであるとは断定していません。かつては、ファンが「東京都葛飾区亀有公園前派出所両津勘吉様」宛てに送ったファンレターが、郵便局の計らいで作者のもとに届けられたという逸話も残っています。

また、2011年には映画『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE ～勝どき橋を封鎖せよ！～』の撮影のため、実際に亀有公園内に派出所を模したロケセットが期間限定で設置されました。

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