人口移動

人口移動とは

人口移動（migration）とは、人々が居住地を移転する現象を指します。この移動は、地域人口の変動に大きな影響を与えるため、人口地理学における重要な研究テーマの一つです。

人口移動の要因

人口移動は、大きく分けて強制移動と自発移動の2種類に分類できます。

強制移動：戦争や政治的迫害など、本人の意思に反して移動を強いられるケースです。
自発移動：進学、就職、結婚、家族構成の変化、転職、退職など、個人の意思に基づいて行われる移動です。

また、所得格差、雇用機会、教育、年齢、生活の質、行政サービスといった要因も人口移動に影響を与えます。一般的に、所得の高い地域や雇用機会の多い地域には人口が流入し、失業率の高い地域からは人口が流出する傾向があります。高学歴の人ほど移動が活発で、年齢が上がるにつれて移動しにくくなるという特徴も見られます。生活の質や行政サービスの充実度も、人口流入を促進する要因となります。

人口移動を考える上で、プッシュ要因とプル要因という概念も重要です。

プッシュ要因：現在の居住地から人々を押し出す要因（例：低賃金、失業率の高さなど）
プル要因：新たな居住地へ人々を引きつける要因（例：高賃金、雇用機会の多さなど）

人口移動の分類

人口移動は、移動範囲によって、国内人口移動と国際人口移動の2つに分類できます。

国内人口移動

国内人口移動（internal migration）は、国内での居住地変更を伴う移動を指します。これは、地域ごとの人口分布を大きく変動させる要因となります。

国際人口移動

国際人口移動（international migration）は、国境を越える移動を指します。出国（emigration）とは、他の場所に定住する目的で自国を離れることであり、入国（immigration）とは、他の国からある国に移動して永住することです。国際人口移動の原因としては、発展途上国から先進国への労働目的の移動が挙げられますが、近年では熟練労働者や留学生の移動も増加しています。航空交通の発達や冷戦の終結も、国際人口移動の増加に寄与しています。

人口移動の法則

人口移動に関する初期の研究として、エルンスト・ゲオルク・ラベンスタインによる「移動の法則」があります。彼は、19世紀のイギリスの国勢調査データを用いて、人口移動の多くが短距離移動であることや、移動距離が長くなるほど移動者数が減少することを明らかにしました。

人口移動の研究

人口移動の研究は、大きく分けて以下の2つのアプローチがあります。

定量的な研究：統計データを用いて、重力モデルや空間的相互作用モデルなどの手法を用いて分析を行います。
定性的な研究：聞き取り調査などに基づいて、個人の移動経験や意思決定プロセスを分析します。

日本における人口移動

日本の地理学において、「人口移動」をテーマとした最初の論文は、吉村（1930）によるものです。戦後の日本では、人口移動研究が盛んになり、全国規模での人口移動の研究や、東京や大阪といった大都市圏の勢力圏に関する研究が行われました。

1970年以降は、地方から大都市圏への人口移動の収束や、大都市圏内部での郊外化や都心回帰といった現象が研究対象となりました。計量地理学的な手法や、行動論的アプローチに基づく研究も行われています。

参考文献

石川義孝 著「国内人口移動」、石川義孝・井上孝・田原裕子 編『地域と人口からみる日本の姿』古今書院、2011年、29-35頁。
石川義孝 著「人口移動」、人文地理学会 編『人文地理学事典』丸善出版、2013年、566-567頁。
井上孝 著「人口地理学」、人文地理学会 編『人文地理学事典』丸善出版、2013年、562-565頁。
小笠原節夫『人口地理学入門』原書房、1999年。
清水昌人 著「国内人口移動」、石川義孝・井上孝・田原裕子 編『地域と人口からみる日本の姿』古今書院、2011年、29-35頁。
高山龍三「わが国の人口移動」『人文地理』第8巻第5号、1956年、369-377頁。
張長平『都市の空間データ分析』古今書院、2010年。
堀川侃「昭和34年, 41年における6(7)大都市の人口移動の統計的考察」『地理学評論』第41巻第12号、1968年、748-760頁。
山口泰史『若者の就職移動と居住地選択－都会志向と地元定着－』古今書院、2018年。
吉村信吉「地名による人口移動の一考察（第一報）」『地理学評論』第6巻第2号、1930年、163-178頁。
Cadwallader, M. (1996). Urban Geography: an Analytical Approach. Prentice Hall

関連項目

人の移動の歴史

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