今市子

今市子（いま いちこ）は、日本の漫画家です。富山県氷見市で生まれ、東京女子大学文理学部を卒業。AB型。ホラーやファンタジー、ボーイズラブ（BL）、さらにはエッセイ漫画といった非常に幅広いジャンルで独特の世界観を構築し、数多くの読者を惹きつけています。特に、怪異と人間が織りなす幽玄な世界を描いた代表作『百鬼夜行抄』は、長期にわたる連載で知られ、国内外で高い評価を得ています。

幼少期より絵を描くことを好み、特に姉の影響を受けて高校時代から漫画創作を始めました。デビュー以前から、萩尾望都氏の『ポーの一族』をはじめとする少女漫画に深く傾倒し、大島弓子氏や文月今日子氏といった作家たちの作品から多大な影響を受けています。大学在学中は、東京女子大学の漫画研究会に所属し、同人活動にも積極的に参加していました。この時期に制作された同人誌に収録された作品の中には、後に商業誌で発表される作品の原型となったものも少なくありません。大学時代に、友人を訪ねていた編集者の目に留まり、一度商業誌への掲載を果たしたものの、その際の反響は限定的でした。

その後も漫画創作への情熱を絶やさず、森川久美氏、山岸凉子氏、宮脇明子氏、ささやななえ氏といった著名な漫画家のアシスタントを経験しつつ、同人活動を継続します。約11年間の研鑽を経て、1993年、『コミックイマージュ』vol.6（白夜書房刊）に掲載された『マイ・ビューティフル・グリーンパレス』で正式な商業誌デビューを飾りました。このデビュー後も、コミティアなどのイベントで発表していた同人誌が再び編集者の目に留まる機会を得ます。特に、『ネムキ』（朝日ソノラマ刊）の編集者との出会いが転機となり、同誌での執筆が始まります。

当初、ホラー作品には特別な興味や経験がなかった今市子氏ですが、『ネムキ』に掲載された和風ホラーの読み切り『精進おとしの客』が編集部内で高い評価を受けたことを受け、これを膨らませる形で『百鬼夜行抄』の連載が1995年にスタートしました。『百鬼夜行抄』は瞬く間に人気を博し、2020年現在も連載が続く息の長いシリーズとなりました。この作品は、妖怪や幽霊といった怪異が日常に溶け込む世界を舞台に、主人公・飯嶋律とその一族、そして様々な怪異たちが織りなすどこか哀しくも美しい物語を描き、多くの読者を魅了しています。

『百鬼夜行抄』以外にも、多種多様な作品を手がけています。例えば、BL作品としては『あしながおじさん達の行方』や『楽園まであともうちょっと』などがあり、読者から支持を得ています。また、長年多数の文鳥と共に暮らしおり、その愛情深い視点から描かれたエッセイ漫画『文鳥様と私』は、愛鳥家としての今市子氏の一面をよく示している作品です。他にも、ファンタジー作品や人間ドラマ、コメディタッチの作品まで、その創作の幅広さは際立っています。

作品はしばしば高い評価を受け、メディアミックスも展開されています。2001年には短編『僕は旅をする』が、人気オムニバスドラマ「世にも奇妙な物語」で映像化され、俳優の稲垣吾郎氏が主演を務めました。代表作『百鬼夜行抄』は、文化庁メディア芸術祭においても評価され、2005年度（第9回）にマンガ部門審査委員会推薦作品に選出された後、2006年度（第10回）には同部門で優秀賞を受賞するという栄誉に輝きました。さらに、2007年には日本テレビ系でテレビドラマ化も実現し、より幅広い層にその存在が知られることとなりました。

繊細な筆致と独特の空気感で描かれる今市子氏の作品は、怪異譚であってもどこか人間味があり、読者の心に静かな余韻を残します。常に新しい表現を追求し、様々なジャンルに挑戦し続けるその姿勢は、日本の漫画界において独自の地位を確立しています。現在も複数の媒体で連載を抱え、精力的に活動を続けており、その生み出す物語世界は今なお多くのファンを惹きつけ続けています。

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