全集

全集とは

全集とは、特定の人物の全著作、または特定のテーマに沿った作品を集めた書籍のことです。文学作品だけでなく、美術作品や音楽作品など、様々な分野で全集が存在します。

字義通りに解釈すると、例えば特定の作家の全集であれば、作品だけでなく、日記、書簡、メモなど、著者の手になる文章全てを収録したものが「完全全集」となります。しかし、実際には、一般の読者にとって一定以上の意味のあるものを選んで編集したものが多く、「全集」として出版されています。この選定作業は、編集者の批評的な視点が強く反映されるため、どのような作品を収録し、どのような作品を収録しないかという選択は、非常に重要な意味を持ちます。

全集の歴史

日本における全集の出版は、昭和20年代後半にピークを迎えました。角川書店の『昭和文学全集』、新潮社の『現代日本文学全集』などに加え、河出書房の『世界大思想全集』、筑摩書房の『現代日本文学全集』などが刊行され、月賦販売が主流になったため、大手出版社が中心となって企画・販売されました。

個人全集

個人全集は、特定の人物の作品を集めたもので、古くは漢籍の「石雲山人詩文全集」などがあります。近代以降では、没後まもなく編纂された「一葉全集」や「紅葉全集」などが先駆けです。岩波書店の「漱石全集」のように、小説、評論、日記、書簡など、その人物の業績や思想を網羅しようとするものは、全集の理想的な形態の一つと言えるでしょう。また、全集は一度刊行された後も、新資料の発見や本文の校訂などにより、改訂されることもあります。筑摩書房の『校本 宮澤賢治全集』のように、推敲過程で消された部分まで復元することで、研究を深める材料を提供する全集も存在します。

存命中の作家が自らの作品をまとめた全集を刊行することもありますが、その場合、全集刊行後に発表された作品は収録されないため、不完全な全集とならざるを得ません。中国では、存命中に全集が出ることはなく、作品集として「文集」が刊行されます。

その他の全集

文学作品以外にも、「陸軍法令全集」のような法令に関する全集や、「ベートーヴェン交響曲全集」のような音楽作品の全集も存在します。音楽作品の全集は、主要作品だけでなく、習作や断片まで収録されることもありますが、編集方針によって収録範囲は異なります。

全集の付録

全集には、販売促進のために「内容見本」と呼ばれるパンフレットが作成されることがあります。このパンフレットには、関係者のエッセイなどが掲載され、貴重な証言や研究資料となることもあります。また、刊行時には「月報」と呼ばれる小冊子が付属することがあり、これも作家の研究に資するエッセイや同時代批評などが収録されるため、古書店では月報の有無が価格を左右するほどです。

全集は、単なる作品の集成ではなく、研究や鑑賞に不可欠な資料であり、その編集には、出版社の歴史や編集者の思想が反映されています。

もう一度検索