剣持勇

剣持勇：戦後日本のデザインを彩った巨匠とその波乱の生涯

剣持勇（1912年1月2日 - 1971年6月3日）は、20世紀日本のデザイン史に名を刻むインテリアデザイナーです。戦後の日本のデザイン黎明期において、渡辺力、柳宗理らと共に日本のデザイン界の礎を築き、独自のジャパニーズモダンを確立しました。彼の作品は、機能性と美しさの融合、そして日本の伝統とモダニズムの調和を見事に体現しています。

戦後の復興とアメリカとの交流

東京高等工芸学校（現・千葉大学工学部デザイン学科）卒業後、剣持は商工省工芸指導所に技師として勤務。その後、日本人デザイナーとして初めてアメリカを視察し、チャールズ＆レイ・イームズ夫妻やジョージ・ネルソンといった巨匠たちと交流を深めました。この経験は、彼のデザイン哲学に大きな影響を与えたと言われています。帰国後、彼は日本の伝統美とモダンデザインを融合させた「ジャパニーズモダン」という独自のスタイルを提唱し、日本のデザイン界に新たな風を吹き込みました。

代表作とデザイン哲学

剣持のデザインは、高度な機能性と洗練された美しさを両立させています。代表作の一つであるホテルニュージャパンのラウンジチェアは、日本の家具として初めてニューヨーク近代美術館（MoMA）のパーマネントコレクションに選定され、その高い評価を物語っています。また、スタッキングチェア（スタッキングスツール）は、廉価で機能的なデザインが評価され、現在もベストセラーとして販売されています。

彼のデザインは、ホテルニュージャパンや京王プラザホテルといった大規模な内装デザインから、ヤクルトやジョアの容器デザインといった身近な製品まで多岐に渡ります。丹下健三設計の香川県庁舎や大谷幸夫設計の国立京都国際会館などのインテリアデザインも手掛け、建築空間との調和にも配慮したデザインを展開しました。

グッドデザイン運動への貢献

剣持は、亀倉雄策、渡辺力らと共に「グッドデザイン」運動を推進し、日本のデザイン全体の質向上に貢献しました。単なる装飾にとどまらない、人々の生活を豊かにするデザインこそが重要だと考え、その理念は彼の作品全体に貫かれています。

悲劇的な最期

1971年、京王プラザホテルのプロジェクトを終えた後、剣持は自らの事務所にてガス自殺しました。遺書には、友人や妻への深い愛情と、自身の心の変化への苦悩が綴られていました。彼の突然の死は、日本のデザイン界に大きな衝撃を与えました。

経歴

1912年：東京府豊多摩郡大久保村生まれ
1932年：東京高等工芸学校木材工芸科卒業
1952年：日本人デザイナーとして初めて米国視察
1952年：日本インダストリアルデザイナー協会結成
1955年：剣持勇デザイン研究所設立
1958年：スタッキングスツール発表
1960年：ホテルニュージャパンのインテリアデザイン、ラウンジチェアデザイン
1964年：ラウンジチェアがMoMAの永久コレクションに選定
1968年：ヤクルト容器デザイン
1971年：京王プラザホテルのインテリア総括顧問、死去

まとめ

剣持勇は、戦後の日本のデザイン界を牽引した重要な人物です。彼の功績は、数々の名作として現在も人々に愛され続けています。その一方で、彼の悲劇的な最期は、時代の変化やクリエイターの苦悩を私たちに突きつけます。彼のデザインと人生は、今もなお多くの人々に深い感銘を与え続けています。

もう一度検索