加賀山就臣

加賀山就臣：不死鳥のライダー、そして新たな挑戦

加賀山就臣。その名は、日本のオートバイロードレース史に、幾多の伝説と共に刻まれている。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身の彼は、類まれな才能と並々ならぬ精神力、そして「鉄人」の異名に相応しいタフさで、国内外の数々のレースを駆け抜けてきた。

彼のキャリアは、全日本ロードレース選手権への参戦から始まる。1990年代半ばからの参戦は、華々しいデビューとは程遠く、むしろ転倒の連続だった。自身も「12戦で24回転倒」と語るように、レース中のアクシデントは絶えなかった。1998年には両手首を骨折する重傷を負うなど、幾度となく大きな怪我を経験している。しかし、それらの苦境を乗り越え、彼は着実に実力をつけ、着実にステップアップしていく。

2003年、加賀山は日本人として初めてブリティッシュスーパーバイク選手権（BSB）にフル参戦。過酷な戦いを繰り広げる中で、彼はさらに大きな試練に直面する。カドウェルパークでの転倒事故は、彼を死の淵へと突き落とした。骨盤複雑骨折、脊椎圧迫、内臓破裂、尿管損傷、さらには感染症による痙攣と、その傷の深刻さは想像を絶する。日本の医師から「帰国が一日遅れていたら命がなかった」と言われるほどの重体だったが、彼は奇跡的に生還、そして復帰を果たした。この経験が、彼に「鉄人」という異名を与えた所以である。

BSBでの活躍を経て、2005年にはスーパーバイク世界選手権（WSBK）に参戦。世界最高峰の舞台で、日本人ライダーとしてトップクラスで活躍。数々の好成績を残し、世界にその名を轟かせた。その後も全日本選手権に復帰、自身のレーシングチーム「TEAM KAGAYAMA」を設立するなど、精力的に活動を続ける。2021年には全日本ロードレース選手権第2戦鈴鹿においてJSB1000クラスの最年長表彰台記録を更新、衰え知らずの走りを見せつけた。

しかし、2022年3月、彼は大きな決断を下す。東京モーターサイクルショーでのトークショーで、全日本ロードレース選手権からの引退を発表したのだ。長きに渡る第一線での戦いに終止符を打った瞬間でもあった。同時に、チームカガヤマとヨシムラジャパンの共同チーム「YOSHIMURA SUZUKI RIDEWIN」のチーム代表兼監督に就任することも明らかになった。

引退後も、彼のモータースポーツへの情熱は消えることはない。鈴鹿8時間耐久ロードレースへの参戦を継続するなど、レース活動の一部を継続。さらに近年は、クラシックバイクイベントへの参戦にも力を入れている。特に「TASTE OF TSUKUBA（TOT）」では、スズキ・カタナをベースに独自のカスタマイズを施したマシンで参戦し、注目を集めた。2022年からは、スズキ・GSX1300Rハヤブサをベースに製作した「鐵隼」でレースに挑んでいる。

デビューから長年スズキのバイクで活躍してきた加賀山だが、2024年シーズンは、スズキからドゥカティに移籍し、チーム監督として新たな挑戦をスタートさせる。ライダーは水野涼選手。

加賀山就臣のキャリアは、単なるレーサーとしての成功物語ではない。それは、幾多の困難を乗り越え、常に前を見据え、新たな挑戦を続ける、不屈の精神の物語である。彼のレジェンドは、これからも多くの人々に勇気を与え続けるだろう。 彼の功績は、日本のモータースポーツ界に永遠に刻まれるであろう。

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