助六

歌舞伎の代表作『助六』：粋な侠客の物語とその歴史

『助六』は、江戸時代の古典歌舞伎を代表する人気演目の一つです。正式な題名は、主役の助六役を務める役者によって変化しますが、その洗練された演出と「粋」を体現した世界観は、長きに渡り日本文化に多大な影響を与え続けてきました。歌舞伎宗家市川團十郎家の家芸であり、歌舞伎十八番の中でも特に上演回数が多い演目として知られています。

助六のモデル：実在の人物像を探る

『助六』の主人公、花川戸助六のモデルについては、いくつかの説が存在します。江戸浅草の豪商の若旦那、京・大坂で名を馳せた侠客、そして江戸・蔵前の札差で知られた大口屋暁雨など、様々な人物が候補として挙げられています。史学者の多くは、江戸の豪商説を否定していますが、大口屋暁雨は実在の人物で、豪遊と粋な振る舞いで知られ、二代目團十郎とも親交があったと伝えられています。大口屋暁雨の気風や嗜好は、後の『助六』の演出に影響を与えたと推測されています。

『助六』の成立と変遷：市川團十郎家の貢献

『助六』は、当初「曾我もの」の一演目として上演されていました。正徳3年（1713年）の二代目市川團十郎による初演以降、様々なバリエーションが登場し、徐々に「助六」をタイトルに冠する演目が主流となっていきます。特に七代目市川團十郎は『助六』を大きく発展させ、現在の『助六』の原型となる『助六所縁江戸桜』を文化8年（1811年）に初演しました。以降、市川團十郎家は『助六』を歌舞伎十八番の中でも最重要演目として位置づけ、その上演回数と上演時間は他の演目を圧倒しています。

代表的な上演演目

『花館愛護櫻』（はなやかた あいごの さくら）
『式例和曾我』（しきれい やわらぎ そが）
『英分身曾我』（はなぶさ ぶんしん そが）
『初鬙通曾我』（はつもとゆい とおし そが）
『聞昔曾我物語』（むかしに きく そが ものがたり）
『男文字曾我物語』（おとこもじ そが ものがたり）
『江戸紫根元曾が』（えどむらさき こんげん そが）
『重重歌曾我』（かさねがさね うたの そが）
『御江戸花賑曾我』（おえどの はなにぎわい そが）
『助六所縁江戸櫻』（すけろく ゆかりの えどざくら）
『宿花女雛形』（やよいのはな おんな ひながた）
『宿花千人禿』（やよいのはな せんにんかむろ）
『助六櫻二重帯』（すけろく さくらの ふたえおび）
『助六所縁八重櫻』（すけろく ゆかりの やえざくら）
『黒手組曲輪達引』（くろてぐみ くるわの たてひき）

『助六』のあらすじと見どころ

『助六』は、吉原を舞台に、侠客の助六（曾我五郎）が、源氏の宝刀「友切丸」を探す物語です。助六は、様々な男と喧嘩を繰り返しながら、巧みに状況を操り、目的を達成しようとします。

主要な場面

口上: 河東節の演奏を前に、役者が客に挨拶を行う。
助六の出: 花道から登場する助六の華麗な傘さしは、演目のハイライトの一つ。
意休との対決: 助六と意休（平家の残党）の激しい駆け引きと、緊迫感あふれる剣戟シーン。
満江との出会い: 助六の母、満江との感動的な再会。母からの諭しは、助六の心境に変化をもたらします。
白酒売とのやりとり: 助六の兄、曾我十郎との再会。兄弟の絆と、友切丸捜索の真意が明らかになる場面。
* 水入り: 助六が天水桶に身を潜める場面。演出によっては、艶やかな濡れ場も含まれます。

『助六』にまつわる文化：助六寿司など

『助六』は、歌舞伎の枠を超えて、様々な文化に影響を与えました。例えば、「助六寿司」は、助六の愛人・揚巻の名前と、稲荷寿司と海苔巻きの形状を掛け合わせた洒落たネーミングです。また、「助六」は、紫色の鉢巻の色から、醤油の隠語としても使われていました。

まとめ

『助六』は、その華麗な演出、魅力的なキャラクター、そして奥深い歴史によって、現代においても高い人気を誇る歌舞伎演目です。本稿では、その歴史、あらすじ、見どころ、そして関連文化について解説しました。歌舞伎に興味のある方はもちろん、日本文化に触れたい方にも、ぜひ『助六』の世界を堪能していただきたいと思います。

もう一度検索