南部陣屋

南部陣屋（なんぶじんや）

南部陣屋は、江戸時代末期に現在の北海道函館市元町、函館山の山麓に設けられていた南部藩（盛岡藩）の駐屯地です。この場所は現在の函館山ロープウェイ山麓駅の駐車場付近にあたり、すぐ下の坂は、この陣屋があったことから「南部坂」と名付けられたと伝えられています。

沿革と役割

南部陣屋は二度、歴史にその姿を現します。

最初期の設置は寛政11年（1799年）のこと。この年、蝦夷地（現在の北海道）のうち、当時「東蝦夷地」と呼ばれていた地域が江戸幕府の直轄領（公議御料）となりました。蝦夷地の警備体制を強化するため、幕府は奥羽地方の諸藩にその任を命じ、南部藩もこれを受けて箱館（現在の函館）の警護を命じられました。南部藩は箱館谷地頭の北方に陣屋を設置し、ここを拠点として警備にあたります。しかし、文政4年（1821年）に蝦夷地が再び松前藩の領地に戻されると、南部藩の役目は終わり、この最初の陣屋は廃止されました。

再び南部陣屋が必要とされたのは、約30年以上後のことでした。安政2年（1854年）、黒船来航を機に箱館が開港されると、蝦夷地は再び幕府の直轄領となります。開港地である箱館周辺の警備は重要度を増し、箱館奉行が設置されるとともに、奥羽諸藩に沿岸警備の任務が改めて課されました。南部藩は、函館山岬から恵山岬を経て、さらに西の幌別（現在の登別市）までの広大な沿岸地域の警備を担当することになります。その際、南部藩にはかつて陣屋が置かれていた場所が再び与えられました。

再建と規模

しかし、かつての陣屋の建物は長年の間に荒廃しており、そのまま使用することは困難でした。そこで南部藩は、この場所に新たな陣屋を建設するための大規模な工事を行います。完成した南部陣屋は、東西約120メートル、南北約180メートルという広大な敷地を持ち、地形を利用して三段に整えられていました。周囲には敵の侵入を防ぐための空堀と土塁（土を盛って築いた囲い）が巡らされ、堅固な構造となっていました。常時210人ほどの兵員が配置され、箱館周辺の要衝を守る重要な拠点としての機能を担いました。

終焉

南部陣屋の歴史は、幕末の激動の中で abrupt に幕を閉じます。慶応4年（1868年）、明治維新へと向かう情勢不安は増大し、東北地方でも戊辰戦争が勃発します。南部藩は藩の状況や本土の戦局を考慮し、蝦夷地で警護にあたっていた兵を撤退させることを決定します。同年8月31日の夜半、南部藩の兵士たちは、自らが守ってきた陣屋に火を放ち、帰国の途につきました。これにより、南部陣屋は廃絶となったのです。

この撤兵の背景には、南部藩が秋田藩との間で勃発した秋田戦争に参戦し、藩兵が必要となっていたという事情がありました。当時、函館の南部藩兵は、幕府からも新政府からも、その場所を守るよう命じられていた重要な存在でした。しかし、南部藩はこれらの命令に反して兵を無断で引き抜いたのです。この行動は、最新鋭の装備を備えていたとされる函館の兵力を失っただけでなく、後に戊辰戦争終結後、新政府が南部藩を処罰する際の罪状の一つともなりました。

関連施設

南部藩は、蝦夷地警備の任にあたる中で、箱館の南部陣屋以外にもいくつかの出張陣屋や屯所を設けていました。現在、モロラン陣屋跡（室蘭市）、ヲシャマンベ陣屋跡（山越郡長万部町）、砂原南部藩屯所跡（茅部郡森町砂原）などがその名残として知られています。

南部陣屋は、短い期間ながらも幕末の蝦夷地警備において重要な役割を果たした施設であり、その歴史は現在の函館に残る「南部坂」に名を留めています。

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