南部坂

南部坂（東京都港区）

東京都港区には、いずれも南部藩にちなむ二つの「南部坂」が存在します。

南部坂（麻布）: 南麻布四丁目と五丁目の境界
南部坂（赤坂）: 赤坂二丁目と六本木二丁目の境界

概要

東京には江戸時代から存在する二つの南部坂があり、一つは港区麻布盛岡町の南部坂、もう一つは同区赤坂福吉町と麻布今井町の境界にある南部坂です。どちらの南部坂も、坂のそばに南部屋敷があったことが名称の由来ですが、赤坂の南部坂の方が麻布の南部坂よりも古い歴史を持ちます。

正保元年（1644年）の江戸絵図には、赤坂・南部坂の坂上、現在の赤坂氷川公園・氷川小学校のあたりに「南部山城守下屋敷」が記されています。しかし、約30年後の寛文13年（1637年）2月の寛文図では、同じ場所が「浅野采女」に変わっています。一方、麻布盛岡町（後の地名）の現在の有栖川宮記念公園には、当初「浅野内匠下屋敷」がありましたが、寛文図ではここが「南部大膳」に変わっています。この南部邸と浅野邸の入れ替わりは、明暦2年（1656年）2月に南部重直の中屋敷（赤坂築地）と浅野長直の下屋敷（麻布）との相対替（あいたいがえ）によって行われました。

つまり、赤坂の南部坂は明暦2年（1656年）以前に命名され、麻布の南部坂はそれ以降に命名されたと考えられます。

南部坂（麻布）

麻布の南部坂は、麻布盛岡町、現在の南麻布四丁目と五丁目の境界に位置し、有栖川宮記念公園の南外囲に沿って東に上る坂です。坂上には駐日ドイツ大使館があり、坂下には南部坂教会、南部坂幼稚園、ナショナル麻布スーパーマーケットがあります。

坂の名称は、江戸時代に現在の有栖川宮記念公園の場所に奥州・南部藩の屋敷があったことに由来します。

南部坂（赤坂）

赤坂の南部坂は、赤坂福吉町と麻布今井町の境界、現在の赤坂二丁目と六本木二丁目の境界に位置し、アメリカ大使館宿舎の脇を北西に上り、左折してさらに氷川神社の方向へ上る坂です。坂の名称は、江戸時代初期に近隣の氷川神社の辺りに南部家の中屋敷があったことに由来します。この坂は急峻であるため、後には「難歩坂（なんぶざか）」と書き表されることもありました。また、「なんぽ坂」や単に「赤坂」とも呼ばれていました。

この坂の由来となった南部家中屋敷は、明暦2年（1656年）に赤穂藩浅野家との間で屋敷の取り替えが行われました。浅野家が赤坂に移った理由は、親戚の安芸広島藩の浅野家が近くに住んでいたためです。これにより、南部家は現在の南麻布、有栖川宮記念公園のある場所へ移動し、移動先でも「南部坂」が生まれたため、同名の坂が二箇所に存在することとなりました。南部坂が「難歩坂」や「なんぽ坂」などと書き換えられたのは、「南部屋敷」がこの坂の周囲から移転してしまったことが理由です。

この坂は、歌舞伎や講談などの『忠臣蔵』における名場面の一つ、大石内蔵助が阿久里（後の瑤泉院）に暇乞いに訪れた「南部坂雪の別れ」の舞台としても知られています。しかし、史実では、南部坂には三次藩ではなく、笠間藩（後に赤穂に移封）の藩邸がありました。瑤泉院は浅野内匠頭の切腹後、実家の三次藩下屋敷に引き取られましたが、この屋敷は赤坂・南部坂の頂上付近で左折して二つ目の坂を登った本氷川坂（東から「南部坂」「氷川坂」「本氷川坂」）近辺、現在の氷川神社境内にありました。

現在、この坂の南西側は駐日アメリカ大使館の官舎（宿舎）になっており、通常は立ち入りができません。

関連項目

* 仙台坂 - 同じく港区にあり、奥州仙台藩伊達家下屋敷に由来する坂

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