占星術殺人事件

占星術殺人事件：謎解きの迷宮へ誘う傑作ミステリ

島田荘司のデビュー作にして、人気シリーズ「御手洗潔シリーズ」の第一作目である『占星術殺人事件』。1981年の発表以来、多くの読者を魅了し続けるこの作品は、その巧妙なトリックと複雑な謎解きで知られています。元々は1980年の江戸川乱歩賞に応募された『占星術のマジック』を改稿・改題したもので、最終候補に残るも落選、その後大ベストセラーとなりました。

1936年、二・二六事件と同日に起きた猟奇殺人

物語は、昭和11年2月26日、二・二六事件の発生と同日に起きた、猟奇的な殺人事件から始まります。画家の梅沢平吉が、自宅アトリエという密室で殺害されるという衝撃的な事件です。

現場に残された不可解な手記には、若い6人の処女から星座に基づいて体の部位を切り取り、それらを合成して完璧な肉体を持つ女性「アゾート」を作るという、奇想天外な計画が記されていました。

その後、平吉の6人の若い娘や姪が次々と失踪し、それぞれの手記に記された部位を切り取られた状態で発見されます。さらに、既に家を出ていた長女も殺害されていることが判明。アゾートは本当に作られたのか？ そして、犯人は誰なのか？ 事件は迷宮入りし、「占星術殺人事件」として語り継がれていくことになります。

40年後の再調査：御手洗潔の登場

それから約40年後、1979年。飯田美沙子という女性が、御手洗潔の占星学教室を訪れます。彼女は亡くなった父親の遺品整理中に、「占星術殺人事件」で切り取られた体の運び屋だったことを告白する手記を発見。警察への届け出をためらい、探偵のような才能を持つ御手洗に相談を持ちかけました。

それまでこの事件のことをほとんど知らなかった御手洗ですが、石岡和己から事件のあらましを聞き、強い興味を示します。彼の類まれな推理力と、独特の視点が、この40年前の未解決事件の真相解明へと導いていくのです。

複雑に絡み合う謎と、鮮やかなトリック

『占星術殺人事件』の魅力は、その複雑で巧妙なトリックと、読者を翻弄する謎解きにあります。密室殺人のトリック、バラバラ殺人、そして占星術という要素が絶妙に絡み合い、読者は犯人像はもちろん、事件の真相すら見通すことができません。

御手洗潔は、独自の視点と推理力で、事件の謎を一つずつ解き明かしていきます。しかし、その過程で新たな謎が生まれ、読者は常に予測不能な展開に引き込まれていきます。

高い評価と、後世への影響

本作は、国内外で高い評価を得ています。「週刊文春」の「東西ミステリーベスト100」では、1985年版で21位、2012年版では3位にランクイン。さらに、イギリスの有力紙『ガーディアン』が選出した「世界の密室ミステリーベスト10」では第2位に選ばれるなど、その高い評価は揺るぎません。

また、そのトリックは漫画『金田一少年の事件簿』の「異人館村殺人事件」で流用されたと指摘されています。島田荘司自身は映像化を望んでいませんでしたが、その人気と影響力は計り知れません。

他のミステリ作家も本作に影響を受け、様々な作品を発表しています。例えば、『大相撲殺人事件』、『六枚のとんかつ』、『彼は残業だったので』、『六蠱の躯』、『デッドマン』など、いずれも本作のトリックやテーマを踏襲、あるいはオマージュとして、それぞれの作家が独自の解釈を加えた作品となっています。

『占星術殺人事件』は、単なる推理小説を超えた、一つの文学作品として、読者に深い感動と余韻を残す傑作です。その巧妙なトリックと、魅力的な登場人物、そして謎解きの過程は、読者を最後まで魅了し続けることでしょう。

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