坂口允彦

坂口允彦九段：将棋とチェスの両道を極めた異色の棋士

坂口允彦九段は、1908年北海道に生まれ、1990年に亡くなった、日本将棋界に多大な貢献をした棋士です。その生涯は、将棋界での活躍のみならず、チェス界での成功、そして独特の個性によって彩られています。

北海道から神戸、そして将棋の世界へ

坂口九段は、北海道で生まれ育ちましたが、14歳の時に兄を頼って神戸へ移住。その後満洲へ渡りましたが、病気のため帰国し、神戸で兄の洋服店を手伝う生活を送りました。しかし、その傍らで将棋の腕を磨き、神戸の将棋クラブの大会で優勝。その実力を見込まれ、関根金次郎の紹介で上京、花田長太郎九段に入門し、1927年に将棋の世界へと足を踏み入れました。

棋士としての活躍と「昭和の三銃士」

1928年の奨励会創設に参加、その後順調に昇段を重ね、1938年には八段に昇段。塚田正夫、建部和歌夫と共に「昭和の三銃士」と呼ばれ、若手時代からその名を馳せました。「くろがね」「不沈艦」と称される強靭な棋風で知られ、順位戦A級に8年間在籍するなど、第一線で活躍しました。また、現役中に2度も日本将棋連盟会長の重責を担うなど、将棋界の発展にも大きく貢献しました。1985年には76歳で引退、これは当時最年長記録でした。

チェスとの出会い、そして日本チャンピオン

坂口九段の経歴で特筆すべきは、チェスにおける活躍です。終戦直後、チェスを独学で学び、その腕前はみるみるうちに上達。アメリカ人に対等に渡り合えることを示すため、チェスのプロに転向するほどの熱意を見せました。アレクサンドル・アレヒンの棋譜を研究し、占領軍将校にチェスを教えるまでになるなど、その実力は高く評価されました。1947年には日本チェス連盟を設立し、日本におけるチェスの普及にも尽力。初代日本チェスチャンピオンにも輝き、1961年には『チェス上達法』を著すなど、チェスの普及にも貢献しました。しかし、占領下の日本では世界選手権への挑戦は叶いませんでした。生活の困窮から1950年に将棋界へ復帰しています。

個性的な棋士像

坂口九段は、棋力だけでなく、個性的な人物としても知られていました。「カッパの鳴き声」と称するテープを対局場に持ち込むなど、奇行でも有名でした。その変人ぶりもまた、坂口九段という人物像を彩る要素の一つと言えるでしょう。

弟子と孫弟子

坂口九段には多くの弟子がおり、その中の孫弟子である中村修九段は坂口九段が現役中にプロデビューを果たしています。これは、現役中に孫弟子がプロになるという、非常に珍しい快挙でした。

功績とその後

1982年には勲四等瑞宝章を受賞しました。将棋界とチェス界の両方に貢献した坂口九段の功績は、現在でも高く評価されています。1990年、肝硬変のため71歳で死去しました。坂口允彦九段は、その類まれな才能と個性で、将棋史に、そしてチェス史に、独自の足跡を残した棋士と言えるでしょう。

もう一度検索