壁に耳あり

壁に耳あり：解剖実習にまつわる都市伝説

「壁に耳あり」とは、医科大学の解剖実習にまつわる都市伝説の一つです。この話は、解剖実習中に、学生が献体に対して不適切な行為を行うという内容で、多くの大学で語り継がれています。

おおむね次のような話が語られます。

解剖実習中、ある学生が献体の耳に針を刺し、壁に押し当てて「壁に耳あり」と冗談を言ったというものです。この話には様々なバリエーションが存在し、「その学生は、後に高名な医学者になった」というものや、「学生の緊張をほぐすために、教授自身が行った」というものもあります。

この都市伝説は、養老孟司も南伸坊の著書『解剖学個人授業』で触れていますが、真偽のほどは定かではありません。

また、同種の話として、献体の耳に水を注ぎ「寝耳に水」、両手に鼻を乗せて「両手に鼻（花）」、切開した胸に手を深く入れて「のどから手が出る」、献体の眼球をくり抜いてドアに当てて「障子に目あり」、口を縫い合わせて「死人に口なし」、手足を切断して「手も足も出ない」などがあります。これらの行為は、一般的に死者の尊厳を冒す行為であり、解剖に自分を捧げた死者や遺族の意思を踏みにじる行為でもあります。

小説家の羅門祐人は、かつて医学生であり、解剖体験記の中で、教授から事前に厳しく注意されたエピソードを紹介しています。また、白菊会の中でも半ば真実として扱われ、会報や講演会で触れられることもあります。

この話は、人によって真実であると考えられ語り継がれていますが、山口敏太郎などの研究者は、この話を都市伝説、つまり人々の間に広まっているものの、話の内容は事実ではない、と指摘しています。

フィクションにおける「壁に耳あり」

この都市伝説は、フィクション作品にも登場しています。

漫画『金田一少年の事件簿』の一編「魔犬の森の殺人」では、登場人物の医学生が「壁に耳あり」を行うシーンがあります。また、漫画『K2』の第243話「実習」では、初めての解剖実習で医学生が献体を使った悪ふざけを行い、主人公に叱責される場面が描かれています。

塚本晋也監督の解剖実習を描いた映画『ヴィタール』でも、献体を使って軽い悪ふざけを行った学生に、主人公が殴りかかるシーンがあります。塚本監督は、この映画のために綿密な取材を行っており、解剖実習は数か月かけて行われるため、最初は緊張していた学生がだんだん精神的にリラックスしてくるため、こういったことが起こり得ると解説しています。

これらの作品では、解剖実習の現場における緊張感の緩和や、倫理観の欠如を描く上で、この都市伝説が効果的に用いられています。

「壁に耳あり」は、解剖実習における人間の倫理観や死者への尊厳について、深く考えさせられる都市伝説と言えるでしょう。

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