天の羽衣

天の羽衣について

天の羽衣（あまのはごろも）は、天皇が大嘗祭において身につける特殊な衣であり、その特異な役割を担っています。大嘗祭は天皇が新穀を神々に捧げる儀式であり、その準備の一環として、天皇は儀式の前に沐浴を行います。この沐浴の際に着用されるのが、まさに天の羽衣です。

具体的には、大嘗祭が行われる夜に、天皇はまず沐浴のために設けられた廻立殿に入ります。そこでは、天の羽衣を着用したまま湯槽に入り、その後衣を脱ぎ捨てて湯から上がります。次に、生の明衣（いきのあきい）に着替えて水気を拭き、斎服を身につけて大嘗宮に向かうことになります。この一連の流れは「小忌御湯」と名付けられています。

大嘗祭は悠紀殿と主基殿の二か所で行われ、入浴もその回数に合わせて二度行われます。それゆえ、天の羽衣や生の明衣はそれぞれ二着ずつ用意されることになります。

大嘗祭における湯帷子の起源は古く、天の羽衣の名称が文献に登場するのは10世紀に成立した『西宮記』が初めてです。その後、12世紀の『江家次第』にもこの名は見られます。

天の羽衣にはさまざまな解釈があり、その着用に特別な意味があるとする説と、そのような特別な意義を否定する説があります。著名な民俗学者、折口信夫は、天の羽衣は霊的な力を集め、身に寄り添わせるための衣であり、天皇がその力が充実した時に脱ぎ捨てるものだと解釈しました。一方で、入浴時に湯帷子を着る習慣は当時の貴族層に一般的なものであったため、衣そのものには特別な意義はないとする見解も存在します。この議論の中で、高取正男は、羽衣伝説に基づく文学的な美称が平安時代の儀式が庶民から離れ、客観化された時期に付けられたと考えています。

これらの考察は大嘗祭の理解を深めるための重要な視点を提供します。天の羽衣は、その神秘的な役割を持ちながら、歴史の中で変遷を遂げてきた衣であることがわかります。実際の儀式やその背景を理解することで、現代における伝統文化の価値や意味を見直すことも可能なのです。

参考文献

• - 折口信夫「大嘗祭の本義」、岡田精司『大嘗祭と新嘗』、学生社、1984年所収。初出は『古代研究・民俗学篇二』、大岡書店、1930年。
• - 高取正男『神道の成立』（平凡社ライブラリー）、平凡社、1993年、ISBN 4-582-76005-8。初刊は1979年に平凡社から。
• - 鳥越憲三郎『大嘗祭　新史料で語る秘儀の全容』、角川書店、1990年、ISBN 4-04-836020-5。

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