小嶋千鶴子

小嶋千鶴子：イオングループの礎を築いた女性実業家の生涯

小嶋千鶴子（旧姓：岡田）は、1916年三重県四日市市に生まれました。老舗呉服店「岡田屋」の娘として育ち、幼い頃から経営に携わる中で、独自のビジネス感覚を磨いていきました。5人兄弟の2番目で、幼少期は父方の祖父と母方の祖父、2人の祖父から愛情深く育てられました。その影響もあり、日本の植民地だった朝鮮半島や満州にも関心を抱いていたといいます。

父・岡田惣一郎の死後、母・田鶴が家業を継承。彼女は座売り方式から立ち売り陳列方式への変更など、革新的な経営手法を導入しました。千鶴子はこの様子を間近で見て学び、経営者としての資質を育んでいきました。

四日市高等女学校卒業後、東京の大学進学を希望しましたが、世界恐慌の影響で断念。その後、母が死去すると、千鶴子は家業である岡田屋呉服店の経営を担うことになります。23歳で代表取締役に就任した際には、既に姉が他界していたため、経営の重責を担うことになりました。

日中戦争中には、愛国婦人会幹部候補生を育成する全寮制の愛国家庭寮に入寮。厳しい規律の中で、社会や政治に対する知識と見識を深めました。

結婚は30歳の時。8歳年上の画家、小嶋三郎一と結婚しました。結婚の時期を遅らせたのは、当時の法律では既婚女性の契約が夫の承諾を必要としたこと、戦争による夫や弟の戦死の可能性もあったからです。

社長には弟の卓也が就任しましたが、千鶴子は経営に深く関与し続けました。1946年、戦後の混乱期には、ハイパーインフレの知識を活かして資産を守り、経営の安定に貢献しました。

1961年には、アメリカの小売業を視察。この経験は、後のジャスコ設立に大きな影響を与えました。1969年、本格的なスーパーマーケット「ジャスコ」を設立し、取締役に就任。その後、ヨーロッパ視察でフレックスタイム制の導入に感銘を受け、日本でも女性が働きやすいパートタイム制度を導入するなど、画期的な人事制度改革にも取り組みました。

さらに、業界初となる企業内大学「ジャスコ大学」を設立し、社員教育にも力を入れます。心理学から文学まで幅広い分野を学ぶ機会を提供し、企業文化の醸成に尽力しました。この教育の成果は、後に3社合併したジャスコにおいて、出身企業の違いによる人事摩擦がほとんどなかったことからも明らかです。

千鶴子は、著書『あしあと』の中で「感激は資産になる」と記しています。この言葉は、彼女の人生の生き様を端的に表していると言えるでしょう。60歳でジャスコの経営から退いた後も、イオン株式会社の名誉顧問などを歴任し、2001年には個人美術館「パラミタミュージアム」を開館するなど、精力的に活動しました。

晩年は陶芸に没頭し、3000個の作品を制作。その作品は写真集『ゆびあと』としてまとめられています。

2022年、106歳で死去。小嶋千鶴子の生涯は、日本の戦後経済発展と小売業界の変遷を象徴するものであり、女性経営者として、また教育者として、多くの人々に影響を与え続けました。その功績は、イオングループのみならず、日本のビジネス界全体に大きな足跡を残しています。

彼女の読書好きは有名で、『エコノミスト』などの専門誌を常に読んでいました。従業員には厳しく接する一方で、「チーちゃん」と慕われるほどの人望もありました。ファーストリテイリングの柳井正氏やセブン＆アイ・ホールディングスの鈴木敏文氏なども、彼女の教えを受けた一人です。

小嶋千鶴子の生き方は、多くのビジネスパーソンに今もなお、大きな示唆を与え続けているのです。

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