尾崎放哉

尾崎放哉：孤高の俳人、その生涯と俳句

尾崎放哉（おざき ほうさい、1885年1月20日 - 1926年4月7日）は、種田山頭火と並び称される、自由律俳句の代表的な俳人の一人です。定型にとらわれない自由な表現で、人間の孤独や自然との一体感を詠み、没後も多くの人々に愛されています。

エリートからの転落、そして自由律俳句との出会い

放哉は、鳥取県鳥取市で生まれ、東京帝国大学（現・東京大学）法科大学を卒業というエリートでした。しかし、卒業後は東洋生命保険（現・朝日生命保険）に就職するも、その性格から周囲との軋轢を生み、退職。その後は、一燈園での生活や寺男などを経て、小豆島の庵寺で最期を迎えます。

放哉が俳句の世界に入ったのは、大学時代。当初は定型俳句を嗜んでいましたが、荻原井泉水が主宰する『層雲』で自由律俳句に出会い、その奔放な表現に惹かれます。会社を退職し、生活が困窮していく中で、放哉は自由律俳句に没頭。自身の孤独や自然への想いを、独自の言葉で表現していきました。

句に込められた孤独と自然へのまなざし

放哉の句は、季語や五七五の定型にとらわれない、自由な形式が特徴です。その句には、人間の根源的な孤独や、自然との一体感が色濃く反映されています。

代表句として知られる「咳をしても一人」は、孤独感を象徴する句として広く知られています。また、「足のうら洗えば白くなる」「いれものがない両手でうける」など、日常の些細な出来事から普遍的な感情を掬い上げるような句も多く、読む者の心を深く揺さぶります。

波乱万丈な人生、「今一休」と呼ばれた生き様

放哉の人生は、決して平坦なものではありませんでした。エリートコースから外れ、職を転々とし、貧困の中で生きる。その波乱万丈な生き様は、「今一休」とも呼ばれました。酒癖が悪く、周囲とのトラブルも絶えなかったようですが、その一方で、自然を愛し、自由を求める心は誰よりも強かったと言えるでしょう。

小豆島で迎えた最期、そして現代に生きる放哉

晩年の放哉は、小豆島の庵寺で寺男として暮らし、句作に励みました。そして1926年4月7日、41歳という若さでその生涯を閉じます。終焉の地である小豆島には、尾崎放哉記念館があり、隣接する西光寺奥の院には放哉の墓があります。

放哉の句は、没後も多くの人々に読み継がれ、その生き様は小説やドラマにもなっています。現代社会においても、彼の句は人々の心に響き、孤独や生きることの意味を問いかけています。自由律俳句という形式を通して、放哉は時代を超えて、私たちに語りかけているのです。

代表的な句

咳をしても一人
墓のうらに廻る
足のうら洗えば白くなる
肉がやせてくる太い骨である
いれものがない両手でうける
考えごとをしている田螺が歩いている
こんなよい月を一人で見て寝る
一人の道が暮れて来た
すばらしい乳房だ蚊が居る
月夜の葦が折れとる
海風に筒抜けられて居るいつも一人
春の山のうしろから烟が出だした（辞世）

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