岡實

岡 實

岡 實（おか みのる）は、明治6年（1873年）9月12日に生まれ、昭和14年（1939年）11月20日に没した、日本の重要な官僚であり、後に大手新聞社の経営者となった人物です。若狭国小浜（現在の福井県）に生まれ、その後奈良県で育ちました。旧制奈良英和学校、東京中学校、第一高等学校を経て、明治31年（1898年）7月に東京帝国大学法科大学政治学科を卒業。同年ただちに内務省に属し、12月には文官高等試験に合格、法制局参事官となりました。

農商務官僚として

明治34年（1901年）11月、岡實は農商務省参事官に転じ、当時の工務課長であった窪田静太郎のもとで、日本の工業行政の中枢に関わることになります。特に彼の名を高めたのは、日本の労働環境改善の基礎となった工場法制定に向けた取り組みです。農商務省商工局内に設置された臨時工場調査掛の中心人物として、全国各地の工場労働者の実態調査を指揮しました。この詳細な調査の結果は、明治36年（1903年）に『職工事情』としてまとめられ刊行されました。これは、当時の日本の労働者、特に女工たちの過酷な労働実態を生々しく記録した報告書であり、その後の労働立法や社会政策に大きな影響を与えた貴重な資料として、現在でも高く評価されています。

明治43年（1910年）6月には、窪田の後任として工務局長に昇進。翌明治44年（1911年）3月には、長年の努力が実を結び、工場法が制定されました。岡は法の制定過程を深く理解しており、その解説書として『工場法論』を著し、同年刊行しています。大正元年（1912年）12月には商務局長と工務局長を兼任、大正2年（1913年）6月には商工局長となり、日本の産業・貿易政策を主導しました。大正6年（1917年）1月には臨時産業調査局の第三部長および第四部長も兼務するなど、多忙な日々を送ります。大正7年（1918年）4月には法学博士号を取得しましたが、同年10月、米騒動の混乱に対する引責であるとされ、官職を辞しました。

官僚退任後も、その専門知識と国際感覚は求められました。大正8年（1919年）10月、国際労働機関（ILO）の設立に関わる第1回国際労働会議がワシントンで開催されると、日本政府代表の一人として派遣され、国際的な舞台でも活躍しました。

新聞社経営者への転身

大正11年（1922年）10月、岡は新聞業界に転身します。大阪毎日新聞社の本山彦一社長に請われる形で同社に入社。昭和3年（1928年）6月には東京日日新聞社の主幹を務め、昭和4年（1929年）4月から昭和8年（1933年）1月までは大阪毎日新聞社副社長として経営に携わりました。昭和8年10月、大阪毎日新聞社内で発生した「城戸事件」と呼ばれる会長追放の社内騒動を経て、岡實は大阪毎日新聞社会長に就任し、昭和13年（1938年）9月までその職を務めました。

栄典と著作

岡實は、その長年の功績により多くの栄典を受けました。位階は従六位から始まり、最終的には勲一等瑞宝章を受章しています。また、イタリア王国からの勲章佩用も許されました。主要な著書としては、『行政法論綱』、『工場法論』、『国民経済要義』、『社会経済批判』などがあり、法学や経済学、社会問題に関する幅広い知見を示しています。彼の学識と経験を記念した論文集も編纂されています。

家族

妻のマサは佐々木勇之助の長女です。息子である岡義武、岡義達は、ともに著名な政治学者となり、東京大学法学部教授を務めました。

岡實は、日本の近代化において重要な役割を担った官僚として、特に工場法制定と『職工事情』の調査を通じて労働行政の基礎を築きました。その後は実業家として新聞経営に手腕を発揮するなど、多方面で活躍し、昭和14年（1939年）11月20日に66歳でその生涯を終えました。

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