峰打ち

概要

峰打ち（みねうち）は、日本刀などの単刃の刀剣の背面、つまり峰の部分を使って相手を叩く技術を指します。これは棟打ちとも呼ばれ、同様の意味を持つ多様な表現が存在します。この技は、主に時代劇の殺陣において使用され、対象を傷つけずに相手を倒すための手段として描かれていますが、実際には武道の技として実践されることはありません。

時代劇などでは、あらかじめ刀を反転させて構える姿が描かれますが、日本刀やそのような形状の刀は、通常は切るために設計されています。峰を向けた状態での構えは、バランスを崩し、相手に意図を伝えることにも繋がります。そのため、実践戦闘には適していません。その巧みさは、時には使われることもありますが、峰側での打撃は刀自身の構造上も不足があり、威力が乏しいとされているのです。

著名な剣術家である牧秀彦は、著作『剣豪 その流派と名刀』でこの技の本質について語っています。彼によれば、「本来の峰打ちは、単に峰で打つことではなく、普通に切りかかって、その寸前で刃を返すという技術」であり、物理的な攻撃力ではなく、相手に『斬られた』という認識をさせることで、意識を奪う意図があるとしています。

この技がイメージとして「刃で斬らなければ出血しないため、死なない」と解釈されがちですが、実際のところは鋼の棒で打撃を加えるため、挫創や骨折を引き起こすことが十分にあります。特に当たり所によっては、命を落とす危険性も孕んでいます。要するに、刃物での攻撃から鈍器での攻撃に切り替わったに過ぎず、その結果、単純に峰で叩いても深刻な損傷を与える可能性は高いのです。

一方、2015年11月に放送されたテレビ番組では、峰打ちの威力がプロのボクサーのパンチよりも遥かに強いという実験結果が示されました。実際、峰で叩くことは鋭利な金属板で殴ることと同様であり、結果として大きな負傷を引き起こすこともあります。

峰打ちの歴史的実例

峰打ちの歴史的な実例として、以下のような事件が記録されています。

• - 弘和3年（1383年）: 三条厳子が出産後、宮中に戻った際に、足利義満との不倫を疑った後円融上皇に峰打ちで殴られ、出血が止まらず気を失う事態に陥った。
• - 天文23年（1554年）: 加島合戦において、原美濃守平虎胤が近藤右馬丞を峰打ちし、首を二、三度打った結果、彼は馬から落馬し、友軍に襲われそうになったが、同盟者によって命を救われた。
• - 天正7年（1579年）: 立花宗茂は幼少期に狂犬に峰打ちで対応。有名な逸話となり、その行動は父によって称賛されました。
• - 寛永の時代: 宮本武蔵はある賭け事の場で騙し討ちを受け、返し打ちとしてむね打ちで敵を制圧した。また、徳川光圀は死罪人に対して意図的に峰打ちを行い、命を救うというエピソードも残されています。

これらの例からも、峰打ちは意図的に用いられたことがあり、それが後世にわたって語り継がれていることがわかります。つまり、峰打ちには、単に刀剣の技術だけでなく、歴史や文化に根ざした深い意義が存在しています。

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