平行進化

生物の進化における多様な様式のひとつに「平行進化」があります。これは、系統的に隔たりのある、あるいは比較的近縁であっても既に別々の道を歩み始めた複数の生物群において、互いに類似した方向へと進化が進む現象を指します。この言葉の使われ方にはいくつか異なる側面があり、その定義には揺れが見られます。

一般的に見られる定義として、「共通の祖先から派生した系統が、互いに共通した進化の傾向を示すこと」というものがあります。しかし、実際の用例では、必ずしも共通祖先を持つ場合に限らず、全く異なる系統の生物が類似した形質を獲得する「収斂（しゅうれん）進化」の過程や結果を指して平行進化と呼ぶことも少なくありません。一方で、共通祖先を持つという定義は、その共通性に何らかの遺伝的な基盤が存在することを匂わせるものです。

共通祖先を持つという定義に沿った平行進化の例としては、節足動物に見られる様々な付属肢（あしなど）の機能変化が挙げられます。たとえば、現生の多くの節足動物では、付属肢の一部が口器（大顎など）として特殊化していますが、古生代に栄えた三葉虫では、付属肢の付け根部分の内側が硬化したり歯状に発達したりして、摂食に用いられていました。同様の構造は、系統的に離れたウミサソリのような他の節足動物の群にも独立に見られます。また、エビ、カニ、サソリなど、節足動物の多様なグループで、付属肢の先端が鋏（はさみ）状に変形している例も多数知られています。これらは、共通の祖先から派生しつつ、それぞれ異なる系統内で類似した付属肢の変化傾向を示した例と見なすことができます。さらに、両生類の一部で見られる幼形成熟（アホロートルやホライモリなど、幼生の形態のまま成熟し繁殖する現象）も、これに近いものと考えられています。

平行進化はまた、異なる分類群の生物が、似通った生態的地位（ニッチ）を占め、類似した自然選択圧を受けることで、結果として似通った形態や機能を持つようになる現象を指すためにも広く用いられます。この場合、互いの形質が相同であるかどうか（共通祖先から受け継がれた構造であるか）は問いません。例えば、哺乳類のイルカと絶滅した爬虫類である魚竜が、それぞれ水中生活に適応する中で非常に似た流線型の体形とヒレのような四肢を獲得したことや、モグラ（哺乳類）とケラ（昆虫）が、地中生活に適応して類似した体型と穴掘りに適した前足を持つことなどが、この意味での平行進化の例として挙げられます。このような、異なる系統の生物が似通った環境への適応の結果として類似した姿形になる現象は、特に収斂（収斂進化）と呼ばれます。

収斂の有名な例としては、オーストラリア大陸の有袋類と、それに対応する他の大陸の有胎盤類との間に見られる多様な類似性があります。例えば、有胎盤類のオオカミに似たフクロオオカミ、オセロットに似たオグロフクロネコ、ウッドチャックに似たウォンバットなど、それぞれが似たような生活様式に適応した結果、形態的にも機能的にも類似した種が異なる系統から生まれています。これらも、広い意味では環境適応に伴う平行的な進化の結果と言えるでしょう。

さらに、生物の体の基本的な構造や器官の設計など、必ずしも直接的な環境適応とは見なされにくい部分に、系統の異なる群で似たような方向の変化が見られる場合も、平行進化として捉えられることがあります。例えば、私たち脊椎動物の目は、レンズと網膜を備えたカメラのような構造（カメラ眼）を持っていますが、タコやイカといった頭足類も、系統的には非常に遠縁であるにもかかわらず、これとほぼ同じ構造のカメラ眼を進化させています。これは、両者の眼の起源はともかく、カメラ眼という高度な構造がそれぞれの系統で独立に発達した例であり、また、両者に共通する特定の生態的地位や選択圧を考えることも難しいケースです。

体の基本構造である体節制も、環形動物と節足動物という、かつては近縁と考えられつつも近年では全く異なる系統に属するとする説が有力な二つの動物群によく発達して見られます。もしこれらの系統が異なるとすれば、体節制もそれぞれ独自の起源で平行して発達した構造と見なすことができます。また、藻類においても、単細胞から糸状体、多核体、分枝した糸状体など、多細胞化の多様な段階が複数の異なる分類群でそれぞれ独立に進化したことが知られています。菌類においても、ツボカビ門の一部と、現在は菌類とは系統が異なるとされる卵菌類（ミズカビ類）が、水中での菌糸構造や細胞レベルの体制の多様性において、類似した進化傾向を示している例があります。

最後に、種分化のプロセスにも平行進化の概念が適用されることがあります。ある生物の集団が異なる環境へ分散し、それぞれの環境で異なる選択圧を受けて生態的に適応していく過程（生態的種分化）で、元の集団との間に生殖的な隔離が生じることがあります。この生態的種分化が、同じ種内で複数の異なる系統で独立に発生した場合、生態的に非常によく似た複数の新しい種が並行して生まれることがあります。このような現象を「平行種分化」と呼びます。これらの類似した種群の間では、まだ完全な生殖隔離が確立されていない場合も見られます。

このように、平行進化は、単に似た形質が現れる現象にとどまらず、進化の定義、適応のメカニズム、基本的な体制の構築、そして種分化の過程まで、生物進化の様々な側面に現れる複雑で興味深い現象です。それは、環境要因、遺伝的制約、発生の仕組みなど、様々な要因が絡み合って進化の道筋が決定されることを示唆しています。

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