後付け設定

後付け設定（レトコン）とは

後付け設定、あるいはレトロアクティブ・コンティニュイティ（Retroactive continuity）、略してレトコンとは、フィクションの世界で物語が展開される中で、後の作品がそれ以前の作品で確立された設定や出来事を変更、補足、あるいは意図的に無視するといった手法を指します。これは、単に過去の情報を訂正するだけでなく、物語の連続性を維持しつつ世界観を広げたり、過去の出来事の解釈を変えたり、あるいは全く新しい物語の道筋をつけたりするために用いられる、物語上の重要なメカニズムです。

なぜ後付け設定が用いられるのか

この手法が導入される背景には、様々な理由があります。まず、人気の高いシリーズで続編やスピンオフを制作する際に、当初の物語では不可能だった展開を実現可能にするためです。例えば、物語の都合で退場させた人気キャラクターを、新たな設定を加えることで再び登場させるといったケースが考えられます。

また、発表済みの作品に対するファンからの否定的な反応や批判に対応し、物語の方向性を修正するために用いられることもあります。過去作で発見された設定上の誤りや矛盾点を修正し、より整合性の取れた世界観を作り直す目的でも利用されます。さらに、以前の物語の解釈を明確にしたり、新たな視点を提供したりするためにも有効です。

フィクションの世界における未来予測や架空の技術が、現実世界の進歩によって時代遅れになったり間違っていたりする場合に、現実に合わせて設定を調整するためにも後付け設定が使われることがあります。総じて、作家が創作上の自由度を高め、より多様な物語を生み出すための柔軟性を確保する手段と言えます。

後付け設定の導入方法には、物語内の登場人物や語り手が直接説明するダイエジェティック（diegetic）な方法と、そうした説明に頼らず、物語の描写を通して間接的に示される非ダイエジェティック（nondiegetic）な方法があります。例えば、タイムトラベルやパラレルワールドといった設定は、ダイエジェティックな後付け設定を導入する上で都合が良い舞台となり得ます。一方、作者が今後触れる予定のない細かな設定を単に無視したり、描写から消し去ったりする手法は、非ダイエジェティックな例と言えるでしょう。

後付け設定の種類と具体例

後付け設定は、その内容によっていくつかの種類に分けられます。

改変（Alteration）

これは、既に語られた物語や設定に対して、後から新たな情報を追加したり変更を加えたりする手法です。この変更は、一見すると以前の情報と矛盾するように見えることもあります。最も典型的な例は、一度死亡したと思われていたキャラクターが、実は生きていたという設定が後に明かされるケースです。ホラー映画で倒されたはずのモンスターや殺人鬼が続編で復活したり、スーパーヒーローコミックで死亡が描かれたキャラクターが復活することは、「コミック・ブック・デス」という言葉が生まれるほど頻繁に見られます。

歴史的な例としては、アーサー・コナン・ドイルが一度は殺害したシャーロック・ホームズを、読者の強い要望を受けて復活させたことが挙げられます。また、アメリカのTVドラマ『ダラス』では、シーズン9の全ての出来事を、登場人物の一人の「夢」であったとして無効化し、前シーズンで死亡した主要キャラクターを復活させるという極端な改変が行われ、これは「ドリーム・シーズン」として知られています。

削除（Subtraction）

この手法は、特定の出来事や設定を、様々な方法（例えば別の時間軸を設定するなど）を用いて、物語の正史から「なかったこと」にするものです。映画『X-MEN』シリーズの『フューチャー&パスト』では、主人公が過去にタイムスリップして歴史を変えることで、以前の作品で確立された特定の未来や出来事が無効化されるという形で描かれました。

プロットホール修正のための後付け設定

物語シリーズ内で見つかった矛盾点や説明不足な要素（プロットホール）を解消するために、後付け設定が行われることもあります。例えば、『スター・ウォーズ』の続三部作では、主人公レイの出自や、死亡したはずの悪役パルパティーン皇帝の復活などが描かれました。これらの後付け設定は、ファンからの評価が分かれる結果となりました。一方で、過去作で脇役だったボバ・フェットやダース・モールの生存が後の作品で描かれたケースや、最初のデス・スターの弱点が設計者の意図的な行動だったと描かれた『ローグ・ワン』のように、肯定的に受け入れられた後付け設定も存在します。

語源について

「Retroactive continuity」という言葉が英語圏で早い段階で使用された例としては、神学者E. Frank Tupperの1973年の著作に見られますが、フィクションにおける歴史の改変を指す言葉として出版物で確認できるのは、1983年2月に刊行されたDCコミックスの『All-Star Squadron #18』が挙げられます。このコミックシリーズは、過去のスーパーヒーローたちの活躍を描く中で、当時のDCマルチバースにおける歴史を毎号のように更新・変更していきました。この状況を指して、作家の一人が「Retroactive Continuity」という言葉を使用し、響きが良いとそのネーミングを気に入ったことが、この言葉が広まるきっかけの一つとなったと言われています。

関連する概念

後付け設定は、しばしば意図せず発生する単なるプロットの矛盾とは異なります。後付け設定は、物語の連続性に対する強い関心に基づき、計画的に導入されるものだからです。ただし、エピソードごとに連続性を重視しないシリーズ（例：『ザ・シンプソンズ』）で生じる矛盾は、後付け設定とは区別されるべきです。一方で、連続性が重視されるシリーズで、不注意による設定ミスを事後的に説明しようとする試みは、後付け設定に似た性質を持つことがあります。

後付け設定は、フィクション作品における世界の構造を柔軟に変化させる強力な手法として、コミック、ドラマ、映画、小説、ゲームなど、多岐にわたるメディアで広く利用されています。ただし、その導入方法や内容によっては、既存のファンの間で賛否両論を巻き起こすことも少なくありません。

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