恋人のいる時間

『恋人のいる時間』：愛と葛藤の狭間で揺れる女性の物語

ジャン＝リュック・ゴダール監督による1964年のフランス映画『恋人のいる時間』（原題：Une femme mariée: Suite de fragments d'un film tourné en 1964）は、既婚女性シャルロットの複雑な愛の物語を描いた作品です。ゴダール監督の長編劇映画第8作目であり、『はなればなれに』に続く重要な作品として知られています。

シャルロットは、パイロットの夫ピエールと子供を持つ一方で、劇団俳優のロベールという恋人をもっています。女性雑誌を愛読するシャルロットは、一見華やかに見える生活の裏側で、複雑な感情と葛藤を抱えています。

物語は、シャルロットとロベールが逢引するアパルトマンから始まります。ロベールはシャルロットに離婚と一緒の生活を提案しますが、シャルロットは即答を避け、翌日返事をすると約束します。アパルトマンを出たシャルロットは、途中でタクシーに乗り換え、飛行場へ向かいます。夫ピエールが自分に探偵を雇っているのではないかと疑い始め、彼を迎えに行くことを決意したのです。

その夜、シャルロットは友人であるロジェ・レーナルト（本人役で出演）と語り合います。ロジェはアウシュビッツの話をしますが、シャルロットはそれを退けます。しかし、この会話を通して、シャルロットは夫ピエールからの愛の深さに気づき始めるのです。

翌日、地方公演を控えたロベールから電話がかかってきます。逢いたいというロベールに会う前に、シャルロットは病院で妊娠3ヶ月であることを告げられます。どちらの子か分からないという事実をロベールに打ち明けると、二人は映画館へ行き、映画を途中で抜け出してホテルへ。ロベールは、シャルロットに離婚の返事を迫りますが、シャルロットは改めて妊娠について訴えます。しかし、ロベールはその重大さを軽く受け止め、シャルロットは怒りをあらわにします。やがて二人は、ジャン・ラシーヌの戯曲『ベレニス』のせりふを読み合うことで、感情を共有しようと試みます。

この映画は、単なる恋愛劇にとどまりません。シャルロットを取り巻く状況、彼女の葛藤、そして時代背景が複雑に絡み合い、観る者に様々な解釈を促します。ゴダール監督独特の演出、そしてヌーヴェルヴァーグの先駆け的存在であるロジェ・レーナルトの実名出演など、見どころ満載の作品です。

撮影監督にはラウール・クタール、フレーミング担当にはジョルジュ・リロン（劇中では医者役としても出演）、美術にはアンリ・ノガレといった、当時のフランス映画界を代表するスタッフが名を連ねています。音楽はベートーヴェンの楽曲が使用され、映画全体に独特の雰囲気を与えています。

『恋人のいる時間』は、ヴェネツィア国際映画祭にも出品され、金獅子賞にノミネートされました。Rotten Tomatoesでの評価も高く、多くの批評家から高い評価を受けています。ゴダール監督作品の中でも、特に注目すべき作品の一つと言えるでしょう。 映画を通して、シャルロットの選択、そして現代社会における女性の立場についても考えさせられる、奥深い作品です。

キャストには、ベルナール・ノエル、マーシャ・メリル、フィリップ・ルロワといった実力派俳優陣が名を連ね、彼らの繊細な演技も、この映画の魅力を高めています。

ゴダールの他の作品と比較しても、『恋人のいる時間』は、その複雑なテーマと深みのある描写によって、多くの映画ファンを魅了し続けていると言えるでしょう。

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