はなればなれに

『はなればなれに』：ゴダールが描く、ナンセンスとロマンの犯罪譚

ジャン＝リュック・ゴダール監督による1964年製作のフランス映画『はなればなれに』(原題：Bande à part)は、単なる犯罪映画の枠を超えた、独特のユーモアとシュールな世界観を持つ作品です。ドロレス・ヒッチェンズの小説『Fool's Gold』(邦題『はなればなれに』)を原作に、即興演出を取り入れた、ゴダール監督の長編劇映画第7作目にあたります。

奇想天外なストーリーと魅力的なキャラクターたち

舞台は冬のフランス・パリ。英語学校の生徒である美しいオディル(アンナ・カリーナ)を巡り、正反対の性格を持つ親友、フランツ(サミー・フレー)とアルチュール(クロード・ブラッスール)は、彼女を巻き込んだ大胆な計画を企てます。オディルのおばの家に隠された大金を奪うという、一見単純な犯罪計画ですが、彼らの行動は予測不能な展開を繰り返します。

計画は次々と狂い始め、最終的にはアルチュールが撃たれるという事態に。フランツとオディルは逃亡を図り、貨物船に乗って南米へと向かう冒険の旅が始まります。この予測不可能な展開、そして登場人物たちの奔放な行動こそが本作の魅力と言えるでしょう。

記憶に残る名シーン：ダンスと疾走

本作で最も有名なシーンの一つは、アンナ・カリーナ、クロード・ブラッスール、そしてサミー・フレーによる3人でのダンスシーンです。ミシェル・ルグラン作曲のリズム＆ブルースが流れる中、彼らは「マジソン・ダンス」と呼びながら軽やかに踊り狂います。このシーンは、後のクエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』やハル・ハートリー監督の『シンプルメン』など、数々の映画に影響を与えたと言われています。

さらに、3人がルーブル美術館を全力で駆け抜けるシーンも大きな話題となりました。ルーブル美術館を一周する最短記録更新を挑むこのシーンは、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ドリーマーズ』にも影響を与えたとされています。これらのシーンは、映画のテンポを加速させ、観客を独特の世界へと引き込みます。

ゴダール流の表現と解釈

ゴダール監督自身は、本作について「不思議の国のアリス・ミーツ・フランツ・カフカ」と表現しています。この言葉は、本作のナンセンスでシュールな雰囲気、そして潜む社会への皮肉や批評性を的確に表していると言えるでしょう。

一見軽妙なコメディタッチの犯罪映画でありながら、社会への風刺や人間の深層心理を巧みに描き出している点が本作の大きな特徴です。時代を超えて、多くの映画ファンを魅了し続ける作品と言えるでしょう。

日本での公開と評価

日本では長らく未公開でしたが、2001年に劇場公開され、高い評価を得ました。レビューアグリゲーターサイトRotten Tomatoesでは、51件のレビューで支持率94％、平均点は8.10/10と、高い評価を獲得しています。

作品情報

監督・脚本: ジャン＝リュック・ゴダール
原作: ドロレス・ヒッチェンズ『Fool's Gold』
出演: アンナ・カリーナ、クロード・ブラッスール、サミー・フレー、他
音楽: ミシェル・ルグラン

『はなればなれに』は、ゴダール監督の革新的な映画表現と、独特の世界観が凝縮された、まさに傑作と言えるでしょう。一度観たら忘れられない、強烈な印象を残す作品です。

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